この年末年始は9連休の人も多く、多くの日本人が海外旅行に出かけた。また、外国人観光客の誘致を促進する日本には、海外からの観光客も多かった。そして、大晦日から元旦に掛けて明治神宮に近い渋谷の街はカウントダウンと初詣の日本人に混じって観光客を含めた訪日外国人で賑わっていたようである。
今回、海外旅行に出かけた日本人にとって海外でのショッピングは、為替レートが円安となり数年前と比べるとお得感は薄れている。一方、訪日外国人にとっては逆の状態となる。そして、お正月を日本で過ごすために一時帰国された海外駐在員の方にも訪日外国人と同様のことが当てはまる。もしも、1,000USドルを持ち帰って日本円に両替した場合、昨年は100,000円くらいであったものが、今年は120,000円になり、20,000円ほど多くの買い物が日本で出来ることになる。
海外駐在員の方にとって理屈では余得が生じて嬉しいはずであるが、果たして実際にはどうであろうか。確かに海外での生活費を倹約し、海外で支給されている給与の一部を貯蓄にまわしている人であれば外貨での蓄えがあり、帰国時にその外貨を持ち帰ることができる。しかし、このようなケースは必ずしも多くはない。その理由として購買力補償方式による海外駐在員処遇を取っている多くの会社が海外駐在員給与の支給方法として「スプリットペイ方式」を採用しており、海外駐在員の手許には貯蓄としての外貨はほとんど残らないことを前提とした仕組みになっているためである。
スプリットペイ方式とは、海外駐在員給与を原則として本国通貨と現地通貨に分けて支払う方法である。現地で使うことを前提としている「任地生計費」、「任地住宅費」(および任地税)のみを現地通貨で設定・支給し、必ずしも任地で使うことを前提としていない「貯蓄」や「インセンティブ」部分は本国通貨で設定・支給するものであり、いわば「任地使い切り方式」である。このように給与を支給することで為替変動のリスクを回避するという特徴がある(ただし、任地データの種類により為替の影響を受ける場合もある)。
当社が実施した最新の『海外駐在員規程および福利厚生制度調査』(2014年)の結果では、92%の日本企業がスプリットペイ方式により支給していた。この結果から分かることは、多くの日本企業では海外駐在員給与を支給する際に急激な為替変動によるリスクを回避できるように配慮した施策を取っているということである。よって、スプリットペイ方式を取っている会社に勤務されている海外駐在員の皆様には為替変動により一喜一憂されないようにお願いしたい。
しかし、スプリットペイ方式ではない支給方法を取っていたり、スプリットペイ方式による支給方法であっても任地使い切り分の一部を本国通貨で支給したり、逆に本国支給の一部を現地通貨で支給したりしている場合には、その部分が為替の影響を受けることになる。このような支給割合の変更が会社都合で行われているのか、それとも自己都合によるものなのかにより為替変動のリスクに対する責任の所在も変わってくる。会社都合の場合には会社が為替変動によるリスクを軽減するような施策を講じるべきであり、自己都合の場合には海外駐在員本人が責任を負うことになる。
最後に海外駐在員処遇を生計費指数と為替レートを乗じて海外払い基本給を決定する、もっとも普及している購買力補償方式ではなく、赴任地(国・都市)別に設定された海外生活費を加算する併用方式や、会社が独自に赴任地(国・都市)の生計費や他社水準を調査し、海外払い基本給を決定する別建て方式など他の処遇方法を取っていても本国通貨と現地通貨に分けて支給しているのであれば、これも一種のスプリットペイ方式といえる。しかし、そこには基本的なこととして海外駐在員給与の支給区分、支給額が合理的に説明できるものか否かという違いがあることをご理解いただければと思う。
文:MERCER インフォメーション・ソリューションズ アソシエイト コンサルタント 祝 敏秀
MERCER コンサルタントコラムより転載
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インフォメーション・ソリューションズ アソシエイト コンサルタント 祝 敏秀(いわい としひで)氏 MERCER JAPAN:http://www.mercer.co.jp/ |