日本企業が海外企業を買収するアウトバウンド型のM&Aは、円安になった今も活発だ。しかし、多額の投資をして買収したにもかかわらず、PMI(Post Merger Integration、買収後の統合プロセス)が思うように進まず、業績面で苦戦する日本企業は多い。日本企業がグローバル企業に脱皮してM&Aを成功させるには何が必要なのか。日系や外資系企業のM&Aに関わる組織・人事面の支援の分野で、十数年にわたる豊富な経験を有するマーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング部門プリンシパル、鳥居弘也氏が語る、M&Aを成功に導く組織・人事の考え方を短期集中連載する。

―― PMIがうまくいかず、思うような成果を出せないまま、数年後にはせっかく買収した海外企業を手放してしまう例も多いようです。なぜ、そんなことになるのでしょう。

日本企業は「言いにくいことは、少し仲良くなってからにしよう」と考え、最初にガバナンスを明確にしたがらない傾向があります。その結果、海外企業のマネジメントがブラックボックス化して、現地経営陣がお手盛りで報酬を増やすようなケースも現実に起きています。

―― 適切なガバナンスの構築には何が必要でしょうか。

■ガバナンスのハードウエアの設計ポイント

 まず、ガバナンス体制構築に向けてこちらの要求を明確に伝えることが大切です。グローバルのルールでは、資本の多数を握る側が、論理的に正当な要求をためらう理由はありません。逆に、日本側は何を望んでいるのか、現地経営者が分からない状況は最悪です。

 ガバナンスはハードウエアとソフトウエアの2つに分けて考えます。ハードは、仕組みの整備です。まず、現地CEOの権限や、各会議体・委員会が議論する範囲や開催頻度を明確にします。各会議体の権限・責任は相互に牽制が働くように設計し、親会社のどこに何を報告するのか、レポーティングラインを整えます。オペレーションは、KPIを決めてモニタリングする仕組みをつくり、スピードや品質を可視化します。ソフトは、任免権、評価権、報酬決定権の人事三権の活用です。目標と評価軸を決め、目標を達成すれば、続投もしくは、より責任のある役職に任命し、ボーナスやLTI(長期インセンティブ)を与えます。しかし、達成できなければ、セベランス(ポジションを退く代償)を支払って退職してもらう、という具合に、人事権発動の条件を明確にします。

―― 日本企業が特に陥りがちな過ちは、どんなものですか。

 日本企業に典型的なケースは、後からゆっくりガバナンスを構築しようと考えて「三年間は現状維持」と言いながら、業績が振るわないと、あわててガバナンスを見直そうとします。それで、海外企業経営者から「約束が違う」と反発され、関係がもつれてしまいます。

―― 問題が起きやすいのは、グローバル企業化のどのステージでしょうか。

 ガバナンス強化の段階でも起きますが、海外事業買収の段階でつまづくこともあります。以前は、「お買い得感による成り行きM&A」が多かったこともあり、狙いも不明瞭な状況に不信を募らせた優秀な経営者が辞めてしまい、事業が頓挫するケースも見かけられました。あらかじめ目的を明確にしてM&A先を選び、経営者同士のコミュニケーションで、課題や価値観を共有することが重要です。

―― 海外事業買収、海外事業ガバナンス強化の段階にある企業・経営者は、どんなことに留意すべきでしょうか。

 日本の経営者は、海外企業買収を通してガバナンスを学びながら、海外企業の経営ノウハウを吸収することもできるでしょう。また、ガバナンスを通じて、海外企業の考え方に触れることで、日本企業の社員も、自分の意思決定権限の範囲内であれば、自由に意思決定をして動くという海外企業の組織能力を身に付け、グローバル化を進展させるでしょう。(第3回に続く)

取材・編集:M&A Online編集部

1回目:グローバル企業への成長はステップ・バイ・ステップで
2回目:「とりあえずそのまま」はトラブルの元。要求を明確にして堅固なガバナンスを

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