企業年金がM&Aに与える影響とは?

大阪に本社を置く小泉産業と小泉成器<いずれも非上場>が、新たなタイプの企業年金である「リスク分担型企業年金」を本年10月にも導入すると報じられた。「リスク分担型企業年金」は、従来から存在する企業年金の2類型である「確定給付型(DB型)年金」と「確定拠出型(DC型)年金」のハイブリットとも呼べるものだ。そのため、「第3の企業年金」と呼ばれることもある。

この例からもわかるように、そもそも企業年金には様々な種類がある。また、M&Aの形態によっても、企業年金ないしは退職給付の制度が企業に及ぼす影響は異なってくる。そこで、今回は、どのようなM&Aで年金制度の統合や決算数値への影響が発生するのかを整理してみたいと思う。

買収価格への影響や制度の統合などが問題に

企業年金は多くの従業員の将来にわたる受給に関わるものだけに、法的な権利義務の点でも、金額的な影響の点でも、重要な課題になりやすい。M&Aに関連するところでは、買収価格への影響や制度の統合などが問題となるケースが多い。

買収価格に関しては、特に、金融商品取引法監査や会社法監査を受けてこなかった企業を対象とするM&Aでは、財務デューデリジェンスなどの過程で、バランスシート(貸借対照表)に計上されていなかった多大な負担額が明らかになることがある。そのような場合、想定していた取引価格を大幅に修正する必要が生じることもある。

また、M&A後に企業年金や退職給付制度の統合が必要かどうかも大きなテーマとなる。一口にM&Aと言っても、その法形式は様々だ。おおまかに区分すると、M&A(Mergers and Acquisitions)のうち、「Mergers(合併)」の場合の方が「Acquisitions(買収)」の場合と比べて、より制度の統合が要求される度合いが高いといえる。

表1:M&Aに関連して退職給付制度が問題となる場合

具体的には、2つの企業が1つに合体する「合併」、それと似たような効果をもたらす「会社分割(吸収分割)」などの場合、従来は別々の制度に加入していた従業員が同一の企業に合流することになるため、制度を統一する必要性が高い。特に、確定給付企業年金法では原則として1年以内に制度を統合すべきことが定められており、法的にも統合が要求される。

これに対して、単純に現金で他社株式を取得するような買収、「株式移転」や「株式交換」を利用したM&Aでは、法人格が別のまま連結グループを形成するケースが多いため、必ずしも制度の統合が必要とは限らない。ただし、このような場合でも、M&A後のシナジー効果や従業員のモチベーション向上など戦略的視点から制度の統合を行うことが望ましいケースが考えられる。

企業年金にはどのような種類のものがあるか

さて、このような企業年金制度は決算数値にどのような影響を与えるのであろうか。決算数値への影響を考えるには、退職給付制度の種類を整理しておく必要がある。

表2:退職給付制度の種類

退職給付制度の種類
退職一時金制度
確定給付型企業年金制度(DB)
確定拠出型企業年金制度(DC)
リスク分担型企業年金制度
厚生年金基金制度
中小企業退職金共済制度

退職給付制度で基本となる分類は、冒頭で登場した「確定給付型(DB型)年金」と「確定拠出型(DC型)年金」だ。「確定給付型(DB型)年金」は、拠出した掛金を年金として運用した結果、将来、従業員への給付額に不足が生じる場合、企業側が追加負担しなければならない制度を指す。これに対して、「確定拠出型(DC型)年金」は、仮に年金の運用成績が悪くても、従業員への将来の給付額が少なくなるだけで、企業側に追加の負担が生じない制度である。

なお、「リスク分担型企業年金」は、「確定給付型(DB型)年金」ではあるものの、運用結果が良くない場合に従業員への給付額が減額調整されるという特徴がある。その分、企業側が支払う毎月の掛金は「割増」の金額になっており、労使間でリスクないし負担を分け合った新しいタイプの企業年金ということができる。

その他にも、国の年金を企業年金が一部代行している「厚生年金基金」、一定の規模以下の企業が加入できる「中小企業退職金共済」(いわゆる中退共)などの制度がある。

企業年金は決算上どのように処理されるか

決算上も、基本的に「確定給付型(DB型)年金」と「確定拠出型(DC型)年金」の2パターンで処理が異なる。「確定給付型(DB型)年金」の場合、企業にとって将来的な負担が生じる部分については、その金額を見積もって負債計上することになる。これに対して、「確定拠出型(DC型)年金」の場合、企業の負担は掛金に限定されるため、掛金の拠出額を費用として処理するだけで済む。「中小企業退職金共済」なども費用処理だけで済ませられる制度となっている。

実際には、連結決算(グループ全体の決算)と単体決算(個別企業の決算)で会計処理が異なったり、従業員が300名未満の会社で適用できる「簡便法」が認められていたり、年金として支給されるか一時金として支給されるかで負債の計上方法が異なるなど、細かい違いもある。

M&Aを実施した際の会計処理はどうなるか

以上は退職給付に関する通常の決算処理の話だが、M&Aを実施した際の会計処理は、M&Aの形態によって変わってくる。一般に、親子会社間や同一グループ内のM&Aである「共通支配下の取引」の場合には影響が少ないことが多く、逆に、新たに支配関係が生まれる「取得」の場合には金額の再評価が必要になったり、多額の損益が発生したりすることが多い。

また、税務上の計算は「適格」M&Aと「非適格」M&Aという分類によって処理が変わる。会計上の「共通支配下の取引」と「取得」の分類とほぼ同じような分類結果となる場合もあるが、基本的にはそれぞれ別の判定をしないといけない。そのため、M&Aを実施した際の経理部署の事務負担はそれなりに重いものとなる。

表3:M&Aを実施した際の会計処理

これに加えて、M&Aが完了した後に退職給付制度を変更する場合は、以前の制度が終了したものとして処理するケースなどもあり、さらに損益が発生する可能性がある。

まとめ

以上のように、M&Aのスキームとしてどのような方式を採用するのか、統合後の企業年金制度をどのようにするのかによって、会計や税務への影響に違いが出る。また、従業員にとって不利益変更の問題が生じないように対処する必要もある。会社法、税法、労働法、企業年金関連法などあらゆる面からの検討が必要となるため、専門家と相談しながら早めに対応するのが望ましいといえるだろう。

文:M&A Online編集部

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