2015年1~3月は約3兆9,000億円に達し、9年ぶりに四半期ベースの最高を更新した。今、日本企業による海外M&Aの第三次ブームが起きている。過去2回のブームの振り返りやディスカウント・キャッシュ・フロー、マルチプル、デューデリジェンス3つのキーワードとともに、戦略を抑えたうえでの買収時の買収価格の決め方、原則についてマーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング  プリンシパル 関根 賢二氏が語る。

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 「海外M&A最高3.9兆円日本勢円安でも成長投資(2015年3月9日付日経新聞)」という一面トップ記事によると「日本企業による海外企業のM&Aが急増している。2015年1~3月は約3兆9,000億円に達し、9年ぶりに四半期ベースの最高を更新した。グローバルに事業を展開する企業ばかりでなく、内需型企業が 成長の種を海外に求める例も目立つ。手元資金が積み上がる中、円安下でも成長に向けて海外への積極投資に打って出る姿勢が鮮明だ」とのことだ。

 日本企業による海外企業への投資ブームは過去にも2回あった。バブル経済末期の1980年代後半と、ネットバブルといわれる2000年頃だ。それぞれの時期の日本企業による海外企業買収の年間件数を見てみると、1980年代後半で概ね年間400~500件、2000年頃で300~400件、と最近の年間案 件数(概ね500件)に近い水準であった。これは他の時期の案件数をかなり上回っている。これらの中には成功と湛えられる案件もある一方で、買収の数年後 には大きな損失を出して売却するなど買収時にの高値掴みによる失敗をしたと考えられる案件も少なからず存在している。

 では、M&Aにおける買収価格はどのように決定されるのであろうか?買収価格の算定にはいくつかの方法があるが、もっともよく使われるのはディスカウント・キャッシュ・フロー法である。これは被買収企業の事業が生み出す利益1を 今後数年に渡り予測をして、その現在価値である事業価値(本業で儲けられる将来にわたる利益の総和)を求める。その上で被買収企業の持っている事業に関係のない資産や負債の価値や借入金などの負債額を加減することで買収価格を決定するというものだ。こう説明すると少し難しく感じるが、アイデアは簡単である。次の例で見てみよう。

1) 実務上、EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)が使用されることが多い。下記の説明では、便宜上、営業利益を用いて説明している。

 あなたは、いつかは 自分のラーメン店を持ちたいと願っている、ラーメン大好きな街のスーパーのオーナーだ。あなたの夢を信用金庫の営業担当者に話したところ、なんとその担当者がいい案件を紹介してくれた。隣町の人気ラーメン店のオーナーが後継者を探しているというのである。そのラーメン店は年商5,000万円、人件費・材料費・光熱費などの営業費用が4,500万円、営業利益500万円とのこと。また、借金などは殆どなく財務的に優等生とのことだ。さて、あなたならこの人気 ラーメン店をいくらで買収するか?

 もしあなたが「このラーメン店はあと5年は必ず500万円の利益を生んでくれるだろう」と考えるのであれば、少なくても500万円×5年間=2,500万 円は払ってもいいはずだ。なぜなら、2,500万円で買収すれば6年目以降のラーメン店が生み出す利益は全てあなたにとっての儲けになるからだ。でもあな たはここでいろいろと考えた。自分はスーパーのオーナーだ。ということは、ラーメンに使う、もやし、キャベツ、豚肉などの具材は安くて良いものを使える。 ラーメン好きの息子にバイトを頼めば人件費も削減できる。スーパーでチラシを配れば集客も向上できる。また何よりも、今まで食べ歩いて成熟させた自分の舌 を信じればラーメンの味も改善できる。これらを実行していけばコストは20%程度削減できるし、売り上げは10%程度上げられる。とすると、買収後の営業 利益は30%くらい増やせるのだから、このラーメン店を3,250万円(=2,500万円×1.3)出しても手に入れたいと。

 あなたがこのように考えてラーメン店を3,250万円で買収すると決めた時、この3,250万円が年間の利益500万円の6.5倍ということで「マルチプル6.5」などと表現する。このマルチプルは買収価格の妥当性を判断するのによく参照される。また、上の例で最後に上乗せした30%部分は、シナジーを見込んだプレミアム、などと呼ばれることがある。なお、2015年3月21日付の日経のコラム「海外M&Aブームの罠」によれば、マルチプルは10 倍以下が適正とされることが多いが、今年は平均で15倍を超えているとのことである。

 さて、ここまでで、あることに気付かれたと思う。そう、「M&Aの買収価格は、被買収企業のみで決まるのではなく、買収企業が考える買収後の戦略 によって、シナジーが発揮できるかによって、大きく変わりうる」ということに。つまり買収価格は被買収企業と買収企業の組み合わせによって初めて決まるのである。そしてもう一つ、「買収価格の妥当性は買収時点ではわからず、買収後の事業戦略を実現して行けるかにかかっている」ということを。