「人材版伊藤レポート2.0」の公表と「人材への投資」
人的資本経営をどのように実践に移していくかのアイディアの提示として、2022年5月に経済産業省より「人材版伊藤レポート2.0」が公表されました。
人的資本についての開示については、内閣官房の「非財務情報可視化研究会」、経済産業省の「非財務情報の開示指針研究会」、金融庁の金融審議会「ディクロージャーワーキング・グループ(DWG)」等において、開示に当たっての考え方や開示の枠組みが議論されています。
このうち、DWGでは、企業経営や投資家の投資判断におけるサステナビリティの重要性の急速な高まりを受け、海外からの投資を呼び込む上でもこの分野の開示の充実は欠かせないとのことで、
1.サステナビリティに関する企業の取組の開示
2.コーポレート・ガバナンスに関する開示
3.四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
4.その他の開示に関する個別事項
というテーマで審議が行われました。
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人的資本に関する開示は、「1.サステナビリティに関する企業の取組の開示」の中で下記のように記載されています。
(1)中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」 (多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とする
(2)それぞれの企業の事情に応じ、上記の「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標及び進捗状況について、同「記載欄」の「指標と目標」の枠の開示項目とする
(3)女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とする
なお、「(3)四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング」については、有価証券報告書による開示以外に、女性活躍推進法の省令改正が予定されており、上場会社に限らず常時雇用労働者が301名以上の企業において男女の賃金格差について開示が必要になります。
この改正法令は2022年7月に施行されます。企業は事業年度終了後概ね3か月以内に公表が求められることになるので、3月決算であれば2023年6月頃から開示が行われていくことになります。
なお、厚生労働省の2021年の調査によると、女性の平均賃金は月25万3600円で、男性の賃金を100とした場合、75.2%とのことです。この開示が行われると、少しでも格差をなくしていかないと「選ばれない会社」となってしまう可能性も多いにあるわけで、開示を契機に様々な施策が実施されていくことが望まれます。
伊藤レポートといえば、ガバナンス改革の先陣を切ったレポートとして「ROE 8%」が話題になりました。コーポレート・ガバナンスについても「ガバナンスコード」を基にコーポレート・ガバナンス報告書で開示をさせることで、上場会社には半ば強制的にガバナンス強化が図られてきました。人的資本に関しても企業任せでは進まないということで、サステナビリティに関する開示が制度化され、その開示に耐えうる人的資本への投資を促すという官製主導で進められていくように見えます。
企業の方とお話しをしていると、「開示内容が〇〇だから何をしなければならない」という思考回路がすっかり身についてしまっていて、「自分の会社であれば何をすべきか」とい観点がどうしても欠けているように思います。
人がいなければ組織になりません。そして、その人が企業価値の向上を支える原動力です。その人的資本をどのように生かし、価値を上げていくか、人的資本に関する方針やKPIについて他社事例をなぞることなく自分たちで考えていっていただきたいと思います。
開示はあくまでもその先にあるものだと思います。
文:辻さちえ(公認会計士・公認不正検査士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.155 2022.7.14)より転載
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