M&Aの原則は「大が小を呑む」

世の中に、小が大を呑むM&Aの例はあるが、M&Aの原則は「大が小を呑む」である。それは、プレミアムを付けて買収する以上、何らかの統合によってスタンドアロンでは出せない高い業績を挙げて初めて買収価格が正当化されるからであり、その統合を推進するには、大が小を呑む方がやりやすいからである。

統合は主に、「経営統合」と「組織統合」の2つに大別できる。買収先の組織は独立したままにして親会社から間接統治するが、親会社とは一枚岩で経営して高い業績を挙げるものが「経営統合」。間接統治からさらに踏み込み、買収先組織の下部構造まで分解してレポートラインを組み替え、親会社組織に吸収して直接経営するのが「組織統合」である。

統合による価値の上積みができないなら、企業はせっかく断行したM&Aによって損をする。また、価値の上積みに手間取れば、機会損失を被る。経営統合や組織統合を最短・最速で進めるには、買収先と議論はしてもよいが、買い手の意思を通すのが道理である。だから、世界の多くのM&Aは、大が小を呑みに行くのだ。逆に、「対等精神の合併」の難度が高いのも、説明がつくだろう。

ここでいう大・小とは、企業や事業の格である。「格」とは、厳密な評価などしなくてもすぐにわかる、明らかな実力の違いである。企業や事業の格は、売上、利益、時価総額、従業員規模、開製販などの保有機能、展開国、商品/サービスのラインアップと競争力、ブランド、市場シェア、人材の質、事業の成長性、社会的な認知度・受容度などから、おのずと決まるだろう。もっとも、明らかな差がない=同格、ということもある。

同様に、経営者や管理者にも「格」がある。企業幹部が流動する国や業界では、格上の企業や事業を経営する経営者は、より優れた手腕と胆力を備え、広く深い経験を積んでいる。この結果、格上の企業や事業の経営者は、経営者としても格上なのが普通である。

日本企業にありがちな問題

さて、ここからが本稿の本題である。前述の通り、通常は、買い手企業のほうが買収先よりも格上なので、話にねじれはない。しかし、買い手企業の特定事業を重点強化する目的のM&Aでは、しばしば買収先の方が、対応する買い手の事業よりも格上である。

格上の相手を買収すれば、何が手に入るのか。それは、買い手がまだ持つに至っていない、格上の事業基盤(組織体制、機能、インフラ、ビジネスパートナー、ノウハウ、ブランド、従業員)、格上の顧客基盤、そして格上の経営者である。これが、M&Aは時間を買うものだ、と言われるゆえんである。しかし、なかでもこの格上の経営者の扱いが難しい。

格上の相手を買収すれば、当該事業の実力は向こうのほうが上なのだから、こちらが株主目線で指示を出して向こうに経営させ、株主として結果を問う「間接統治」が合理的である。ここまではよいが、海外M&A経験の不足に加えて、自分たちが当該事業において格下であるという思いから「買収先へのコントロールが効かなくなる」のが、日本企業にありがちな問題である。

その原因の核心は、買収先経営トップの上司(買い手側の人間)の役割が十分機能しないことにある(図1)。

図1 間接統治確立のポイント
©MERCER 筆者作成

まずは買収先経営者の「格」を考えよう

まず、買収先経営トップの上司の人選に際しては、経営者の格を考えなければならない。上司の役割は、方針を示し、業績目標を決め、指示を出し、議論はしても最後は納得させてやり切らせ(より良い考えがあれば採用し)、業績を評価し、報酬と今後の任免を決めて引導を渡す、ということなので、もし上司が専門性はあるが経営者として格下だと、事業・実務のことはわかっても、このような肝心な話になればなるほどうまくいかないのである。

逆に、経営者としては確かに格上だが、その事業を管掌するには専門性や経験が足りない(ない)ということなら、その不足を補う方法は、スタッフ、仕組み、プロセスなどいくらでもある。

買収先の事業がこちらと違いすぎ、専門性の補完自体が難しい場合でも、格上の上司が業績目標を定め、その達成手法は相手の専門性が上なので提案させ、結果をきちんと問えば、秩序感を明確に維持したまま、相手の専門性を活用し、上手に実を取ることができる。また、2年目、3年目とこちらのリテラシーが上がるにつれて、より上手にコントロールできるようになる。

買収先に対するコントロールの確立
ーその取り組みとタイミング

買収先にしっかりとコントロールを利かせることは、間接統治の基本的な所作である(図2)。これは、買収先経営トップと信頼関係を築く、あるいは相手に敬意を払う、と言ったこととは別の話で、必ず行うべきことである。

取り組み内容とタイミング
©MERCER 筆者作成

具体的には、まず買収先経営トップがでたらめをやらないように権限を適切に設定し、次いで上司が経営の進捗や買収先経営トップの力量・意欲を確認する月次会議を充実し、さらに可視化の仕組みを整備して「都合の悪いことは隠してもいずれ露見する」と知らしめ、牽制する。   

並行して、買収先経営トップに辞めてもらいたいときに辞めさせられるように準備し、任免権を確立する。買収先幹部をアセスメント(人材評価)して、果たしてどんな人材がいるのかいないのか、情報を整備するところから始めよう。

「可視化」と「任免権」の二大抑止力を利かせよう

買収直後は、買収先の経営トップに辞められたら困るのが普通だろう。そこで、本人が「悪いが辞める」と言い出しにくくするリテンション策(引き止め策)を講じ、それが効いている間に、本人がいなくてもなんとかやる目途をつけるように画策することだ。これを怠ると、辞められたら困る状況がいつまでも続き、こちらが雇っているのに、本人に言いたいことも言えなくなってしまう。

「可視化の仕組み整備」と「任免権の確立」は、買い手にとっての二大抑止力である。これらのないところで、上司・部下のレポート関係だけで買収先経営トップと対峙しようとしても、こちらはいわば丸腰であるから、向こうは何も怖くない。

このため、買収後は適当に理屈をつけて、問答無用で可視化の仕組みを整備し、経営者と幹部のアセスメントを行う。せっかくの抑止力を、進んで封印するようなことはあってはならない。もちろん海外の経営者は悪い人、嫌な人ばかりではないが、人間は様子を伺い、機を見て考えを変えるものなので、怖れさせることができれば最高。少なくとも甘く見られないことが、絶対に必要である。

格上相手の買収は「間接統治に徹する」

このように、格上の相手の買収では、堂々と「間接統治に徹する」のが肝心である。①格上の上司を置き、②仕組みをしっかり構築し、③スタッフが上司に最高の武器・弾薬(事実、分析、論点)を持たせて支援するのである。Win-Winへの道は、そこから開ける。

文:竹田 年朗(MERCER グローバルM&Aコンサルティング パートナー)