【会計コラム】四半期開示義務の見直しについて

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ビズサプリの泉です。

岸田政権の目玉政策の1つである四半期開示の見直しについて、金融審議会において議論がすすんでおり、金融商品取引法(以下、「金商法」)の四半期開示義務(第1・第3四半期)が廃止となりそうです。今回は四半期開示義務の見直しについてお話したいと思います。

1.四半期報告制度の概要

四半期開示は取引所への開示として、2003年4月に「四半期業績の概況」(第1・第3四半期における売上等)が導入され、2007年4月から「四半期財務・業績の概況」の開示が義務づけられました。その後、四半期報告制度は、2008年4月1日以後開始する事業年度及び連結会計年度から金商法上の制度として導入されました。

対象会社は、原則として、有価証券報告書を提出しなければならない会社のうち、「上場会社等」(金商法第24条第1項第1号に掲げる金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社である会社その他の政令で定めるもの)となります。対象会社はその事業年度又は連結会計年度が3か月を超える場合、事業年度を3か月に区分した各期間毎(最後の期間を除く)にその期間経過後45日以内に四半期報告書を提出する必要があります。

四半期報告書は45日以内といった短期間での提出が求められるため、年度と比較して簡便な会計処理が認められています。また、記載事項についても四半期報告書が制度化される前の半期報告書と比較しても、集約して記載する項目や異動があった場合のみ記載する項目が多くまた経理の状況も個別財務諸表は不要である等かなり簡素化されたものとなっています。

2.四半期決算導入の経緯

四半期決算が導入された経緯は、金融審議会金融分科会第一部会「ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告 今後の開示制度のあり方について」(2005年6月28日)(以下、「前報告」)において次のように述べられています。

「企業を取り巻く経営環境の変化は激しく、これに伴い、企業業績も短期間のうちに一層、大きく変化するようになってきている。こうした状況の下では、投資者に対し、企業業績等に係る情報をより適時に開示することが求められるとともに、これに通じて、企業内においても、より適時に経営管理に必要な情報を把握し、的確な経営のチェックを行っていくことが期待される」

この前報告を背景として、上述のようにまず取引所における適時開示として四半期開示が導入され、次の理由により金商法に基づく四半期報告制度となりました。

・情報の比較可能性を高める観点から、四半期財務諸表の作成基準について一層の統一を図る
・四半期財務諸表の信頼性を高める観点から、監査法人等による保証手続に係る基準を整備・導入する
・四半期財務諸表に虚偽記載等がある場合に罰則が適用されるように証券取引法上の制度として整備する。

3.四半期決算の現状、および今後の動向について

その後、2018年に金融審議官ディスクロージャーWG(以下、WG)にて四半期開示の在り方について、検討・整理されましたが、開示の後退と受け取られて資本市場の競争力に影響がでることを懸念し、見直しは行われませんでした。

今回、岸田政権の公約に「「四半期開示」を見直し、長期的な研究開発や人材投資を促進します。」とあったことを契機として、2022年2月18日のWGにて改めて検討が始まり、6月13日に 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」ー中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて
(以下、本報告)として報告されました。

本報告では、中長期的な視点に立った企業経営と四半期開示の関係、主要国の資本市場における四半期開示の状況、四半期開示と投資家に対する適時で正確な情報提供の関係などについて実証研究を含めて報告されています。

内容としては、次のように報告されています。

・四半期開示と短期主義の関係は明確ではない
・米国は法令上の四半期開示を継続しているが、欧州は任意開示の実務が定着
・開示の後退とならないように、四半期決算短信に「一本化」することが適切

その結果、法令上の四半期報告書による開示義務(第1・第3四半期)は廃止され、四半期決算短信に一本化されることはほぼ決定のようです。

4.現場実務への影響はどうか

私も10年以上実務担当者として開示書類の作成に携わってきており、四半期開示自体の有用性は理解しているものの、金商法開示の必要性はあまり感じず、むしろ弊害のほうが大きいというのが本音であり、今回の方向性は歓迎しています。

具体的には、元々の導入経緯について次のように感じているためです。

・四半期作成の基準は必要であるものの、年3回も45日以内に多くの工数をかけて四半期短信と四半期報告書を別に作る必要はない。
・監査法人のレビューの時間を考えると、実質的に決算作業にかかる工数が制限され、非財務情報及び財務情報について充実した開示を行おうとするインセンティブがむしろ低下する。
・近年の不適切会計や、粉飾などをみる限り四半期開示における金商法による罰則は、効果があったとは思えず、四半期レビューの限定された手続、レビュー日程で投資家の期待する保証水準を保てているのか疑問がある。

また、監査法人は四半期レビューにより年度監査手続の工数が削減できる、四半期レビューがないと開示資料の正確性が低下するという意見を聞きますが、工数に関しては期中往査をすればよく、むしろ四半期報告書提出までの法定期限が短いものに対してのレビューであるが故に十分な深度での検討ができていない気がします。

実際、公認会計士監査があることで一定の牽制効果はあると思うものの、「上場会社等における会計不正の動向(2022年版)」によると会計不正(粉飾又は資産の流用)の発覚経路のうち、公認会計士監査は4番目の10.9%であり監査より保証水準の低いレビューでの効果はさらに低いのではないかと思われます。

また、私の経験上、監査及びレビューの有無に関係なく事業会社の経理・開示担当者は誤謬のある開示資料を作成しようとするインセンティブはありません。むしろ、多くの日本企業の経理部門は、月次ですら経営陣からの指摘を過度に気にして、正確性、品質を求めがちであるというのが個人的な印象です。

四半期開示が四半期短信に1本化され、2008年の四半期制度導入から年中多忙な部署となってしまった経理部門が、四半期毎の報告書作成作業及び監査法人のレビュー対応から解放されることは、その分の工数を開示内容の充実にあてることができるため、ぜひ実現してほしいと思います。

文:泉 光一郎(公認会計士・税理士)
ビズサプリグループ メルマガバックナンバー(vol.155 2022.6.29)より転載

参考:金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の公表について 令和4年6月13日(金融庁)

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