M&A交渉を円滑にする役割も

――表明保証保険の活用に際して、どの程度の規模の案件で選ばれる機会が多いのでしょうか。また、適した案件の規模や特徴などはありますか?

 弊社では過去に50億円から1,000億円超の案件まで幅広いレンジで手配をしておりますが、その中でも100~300億円規模の案件が比較的多いかと思います。
  M&A案件がそれぞれ異なるように、保険の諸条件および付保する金額(保険金額)もケースバイケースです。我々のベンチマークでは対象会社の企業価値の20%を保険金額とするケースが多いので、例えば企業価値が100億円の案件の場合、保険金額は20億円になります。保険料はその保険金額に保険料率を乗じた金額であり、欧州・アジア・太平洋の案件では約1.5~3%、北米の案件では2.5~4%程度になります。つまり実際に支払う保険料は、前者では3,000~6,000万円、後者では5,000~8,000万円程度です。
 本保険はテーラーメイド型の保険であるため、保険会社が最低保険料を設定している場合があり、最低でも50億円規模の案件でないと結果としてコストがかなり割高になる可能性があります。なお、保険料は全保険期間に対する一括払いで、保険期間は契約の締結や履行の権限、株式の有効性などの基礎項目および税務に関わる表明保証は6~7年、それ以外の財務や事業に関わる表明保証は2~3年というのが一般的です。

――現状では中~大規模なM&A向けの商品という事になりそうですね。採用する業界や業態に特徴はあるのでしょうか。

 弊社の過去の取扱い実績では製造業が多いですね。保険会社としても、知財や研究開発(R&D)など無形資産の割合が多い業種より、生産設備など有形資産の割合が多い製造業などをより好むようです。金融業は比較的引受けが難しい傾向にあると思います。

――保険金請求を行う表明保証違反の事例を具体的に教えてください。

 具体的な事例は案件の秘匿性などの観点からオープンになることは多くありませんが、この保険の引受最大手保険会社の1つであるAIGグループのデータ4によると、財務諸表やコンプライアンス、契約、税務に関するものが多い傾向にあるようです。
 私が過去に手配した案件にも表明保証違反の事案があり、保険金請求のサポートをしましたが、その時も違反の項目は財務諸表や税務に関するものでした。前述のデータによると、AIGグループが2011~2015年に全世界で引受けした保険契約のうち20%前後が請求の通知を受けているとの結果があり、それが全て保険金支払いにつながるという訳ではないものの、確率はそれなりに高いことが分かります。

――リスクヘッジのほかに、表明保証保険を締結するメリットがあれば教えてください。

  買主が自らの投資に対するリスクを軽減したい場合と、売主が取引後に生じる契約上の責任から自らを守りたい場合、この2つのルートから活用されるのが「表明保証保険」です。
 偶然な事象により生じた損害を補償するという損害保険本来の役割はもとより、この保険が交渉のテーブルにあることにより、売主と買主の交渉の距離を縮め、取引を円滑に進める役割をも果たすのが、この保険の特徴でもあり、他の保険と大きく異なるところでもあります。
 私が携わった案件の中には、この保険がなければM&Aが成立しなかった案件もあります。弊社グループの取扱件数も飛躍的に増加しており、今後M&A交渉の場でさらに存在感が増すものと見ています。

4 AIG Global M&A Claims Study 2017による