国内企業が主体的に活用すべきケースとは

――国内企業はどのような点に注視して、「表明保証保険」を活用すべきとお考えでしょうか。

 M&Aにおいて、これがあるから安全という絶対的なものはなく、常にリスクはついてまわるもの。どのような企業にも後になってリスクが顕在化する可能性を秘めていると思います。
  国内企業の海外企業買収は件数・金額ともに未だ高水準で推移しており、表明保証保険が全ての案件に適するということはありませんが、M&A交渉を優位に進めるためのカードとして持っておくのはとても有用だと思います。また、買収後の統合作業やシナジーの創出に苦戦する国内企業が多い中で、リスクマネジメントの視点だけでなく、コーポレートガバナンスの視点からもこの保険を検討することが重要になっていくのではないでしょうか。

 国内企業が主体的に検討するケースを挙げると、例えばオークション (競売) 方式などの案件で自社の入札条件を差別化する場合ですね。特に売主がPEファンドや個人などの場合は表明保証条項や補償条項を可能な限り限定したいというニーズがあり、買主が自身の保険手配によって対処してくれるのであれば売主にとって魅力的に映るかも知れませんし、場合によっては売主にとって買収価格よりも重要な選定基準かも知れません。
 また、経験値のない国・地域や新興国の企業を買収する場合もあります。買主が現地の事情や法制度に明るくない場合などはリスクが大きく、SPA上で表明保証条項および補償条項に合意しても、表明保証違反に係る双方の立場が対立するなどして補償が履行されなければ事態の長期化は避けられません。このような場合、表明保証保険に加入していれば請求手続きは保険会社との協議になり、売主との協議に比較してプロセスがスムーズに進むので、解決までの時間も大幅に短縮されることとなります。
 あるいは、買主用表明保証保険の特徴のひとつとして保険請求の際に売主への通知・請求や関与が必須ではないため、買収後に対象会社の経営陣が引き続き残る場合や、買収後も売主と取引関係が続く場合など、売主および対象会社の経営陣と友好的な関係を維持した場合にも検討されているかと思います。

――最後に、国内で完結するM&Aで活用されることはあるのでしょうか。

 「表明保証保険」は一般的に引受審査(アンダーライティング)が海外も含めて行われることからクロスボーダー向けに検討されるケースが多く、買主・売主がともに日本企業である国内案件では検討されるケースがあまりないというのが現状です。
 弊社でも過去数件の国内案件での手配実績がありますが、SPAは全て英語で作成された案件でした。ただ、国内案件の問い合わせも一定数いただいており、市場の中でニーズがあることは確かです。
 現在はSPAが英語である、または英訳を用意することが要求されるためこれが保険導入のハードルになっているのは確かです。日本の保険会社がノウハウを蓄積出来れば、今後「表明保証保険」がM&A市場においてさらに身近な存在になり、国内の活用事例が増加することは十分にあるでしょう。もちろん、そうした声を保険会社へ伝えるのも我々保険ブローカーの役目だと思っています。

――ありがとうございました。

どのようなM&Aにもリスクはついてまわるもの。表明保証保険のメリットが広まり、日本語で完結する表明保証保険のサービスが開始される日を待ちたい。

取材・文:M&A Online編集部

羽田野 順(Jun Hatano)略歴
マーシュブローカージャパン株式会社バイスプレジデント。あいおい損害保険株式会社(現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)を経て、マーシュジャパン株式会社入社。2017年よりマーシュブローカージャパン株式会社にて現職。M&A案件におけるリスクアドバイザリー業務に従事。PEファンドの投資案件に対するリスク・保険デューデリジェンスや買収後の保険プログラム構築のサポート、事業会社のクロスボーダーM&A向け表明保証保険、環境保険等を活用したディールソリューションなどを提供。米国公認会計士(ニューハンプシャー州)。