2018年度から株式対価M&Aに関する株式譲渡益への課税が繰り延べされる。この制度によって自社株を対価とした事業再編や、大型のM&Aが容易になるものと期待されている。そこでM&Aの研究に取り組んでいる中京大学の矢部謙介教授に新制度の効果についてお聞きした。

メリット大きく件数は増加する

―2018年度から株式対価によるM&Aによって得た株式に対する課税繰り延べが実施されます。この効果をどう見ていますか。

売り手企業側の株主にとってはメリットがあるだろう。1999年の改正商法で株式交換が認められた時も課税繰り延べが実施された。株式交換によって完全子会社になる会社の株主にとってはメリットが大きかったため、株式交換による完全子会社化が増えた。こうしたことを見ると今回も株式対価によるM&A件数は増える可能性は十分にあると思う。

―今回の制度は3年間だけの限定措置ですが、これについてはどのようにお考えですか。

実は自社株を対価としたTOB(株式の公開買付け)自体は2011年に施行された改正産業活力再生法によって使えるようになっていたが、売り手企業の株主に対する課税の問題から、ほとんど使われることがなかった。課税繰り延べが3年で終わりになると、その後は元に戻る可能性がある。3年間だけやる意味はどこにあるのか。本当に株式対価のM&Aを推進しようとするのなら恒久減税にするのがいいだろう。

―今回の制度は廃業を抑制する効果があるといわれています。

中小企業間のM&A は増えてきている。いろんな機関がM&Aを仲介するようになってきた。ただ中小企業間で株式を対価に買収するケースが出てくるかと言えばそれは難しいと思われる。自社株を渡して相手の株式を取得するわけだが、これでは買った会社の持ち株関係が複雑になる。事業承継では持ち株関係でもめることが多いので、このスキームは使いにくいだろう。では上場企業が廃業に瀕している中小企業を果たして買収するだろうか。これも効果は限定的になる可能性が高い。株式対価のM&Aが中小企業の廃業を抑制するというのは、どういうシチュエーションで使われるのかが分かりにくいところがある。

大型M&Aの増加効果には疑問

―大型のM&Aが増える効果も指摘されています。

大規模M&Aについても本当にそうなのか疑問が残る。日本で大規模なM&Aが少ないことの理由が株式を対価として使えないことなのだろうか。今回のスキームが大規模M&Aを促進するというのは、日本の会社、特に大企業、上場企業において買収する資金が不足しているという状況があって初めて成り立つと思う。現時点の日本企業はこれまでにないくらいキャッシュリッチな状況にある。無借金企業が過去最高というデータもある。大規模M&Aが少ないというのはデータが示す通りで、ではなぜそうなのかというのが問題のような気がしている。

日本で大型M&Aが少ないのは、統合メリットがあると経営者が判断していないのではないのかという仮説も成り立ちうる。大型M&Aが魅力的だと思う経営者が多ければ、何とかしてやろうと思うだろう。その時に支払い手段として株式も使えるとなると一定の後押しになるはずだ。ただ、どちらかというと大型M&Aが少ない理由はそれではなく、日本企業が国内での大型M&Aに対して魅力を感じていないからかもしれない。海外に対する大型M&Aはある。ソフトバンクやサントリーなどがやっている。今回の税制の話は国内。国内M&Aの大型案件に対して経営者が魅力を感じなければ、国内企業同士の大型 M&Aは増えないかもしれない。