大手書店にはM&Aの専門書が入門書から実務書、学術書まで所狭しと並び、百花繚乱の感がある。そのアプローチも法務、税務、労務など多岐にわたる。そんな中、今年2月に出版された一冊が『M&A会計の実務』(税務経理協会刊)。仰星監査法人社員(パートナー)で公認会計士の竹村純也さんに、執筆の動機や仕事への思いなどを聞いた。

M&Aは今やどの企業にも起こり得る

ー会計に関する著作を多数お持ちですが、今回はM&Aに正面から向き合う格好となりました。

企業結合会計を全般的に紹介するものではなく、M&A会計に実務的にフォーカスした解説書を目指した。M&A会計とは企業買収などの際に必要となる会計処理や注記のこと。M&Aへの取り組みが稀(まれ)な企業であれば、経理部門もその方面の会計処理の習得までは手が回りにくいし、知っていても詳しくはない。その意味では「縁遠い世界」と言っていいかもしれない。

しかし、今やどの企業もM&Aがいつ突然降りかかってきてもおかしくない。経理部門がM&Aに関与するのは買収先企業へのデューディリジェンス(財務・資産の状況、将来見通しなどの詳細な調査)に差しかかったあたり。デューディリジェンスの実施段階では最終的な意思決定までの過程のうち8割程度まで進捗しているので、経理部門にとって時間的な余裕はない。M&A会計はふだんなじみのない事柄を含めて、ものすごいボリュームがある。私から見ても、経理部門は大変だなと思っていた。そんな彼らを何とか手助けできないかと思って執筆した。とにかくシンプルさを心がけた。複雑なM&A会計の中からここだけは押さえておきたいというポイントを整理した。

著書を手にする竹村さん

-M&Aは年を追って増加しています。当の経理部門にとっては、いつ何時、差し迫った問題となってもおかしくありません。

約3600社の上場企業のうち、M&Aの実行を開示している割合は10%強。国内市場が縮小に向かう中、成長戦略としてグローバル化の動きが加速している。加えて、中小企業を中心に後継者難に伴う事業承継問題も深刻化している。成長を維持するため、M&Aの有用性が一層高まることが容易に想像できる。

もちろん、東証一部上場企業でもM&Aとまったく縁遠いところもある。規模は小さくともIT系ベンチャーの多くは積極的だ。M&Aは業種によって多寡はあるにせよ、企業規模は関係ない。

M&Aの手法には合併事業譲渡、株式の購入、株式交換株式移転などがある。しかし、企業結合会計基準はこうした手法ごとに規定しているわけではなく、企業結合の種類ごとに規定している。種類には「取得」(企業・事業の買収など)、「共同支配企業の形成」(合弁会社など)、「共同支配下の取引等」(グループ内再編など)の三つがあるが、このうち「取得」に該当する場合にはパーチェス法と呼ばれる会計処理を用いる。