TOB(株式公開買い付け)の不成立が連続している。外食のホリイフードサービスをめぐるTOBが2024年の案件として今年初の不成立に終わったほか、物流のC&Fロジホールディングスに対する同業のAZ‐COM丸和ホールディングスのTOBも6月19日の買付期間末日を待たずに不成立が事実上確定している。
前年分も含めると、TOB不成立となった直近3件はいずれも対抗TOBで「待った」がかかった案件だ。ひと頃はアクティビスト(物言う株主)が仕掛けた敵対的TOBが経営陣の反対で失敗し、不成立につながるケースが多かったが、ここへきて状況が変わりつつあるのか。
株主からの応募数が買い手が設定した買付予定数の下限に届かない場合にTOBは不成立となり、買い付けは行われない。
TOB不成立は2019年を境に増加傾向にある。2010年以降(一覧表)をみると、年間0件ないし1件で推移していたが、2019年4件、20年6件の後、ピークの21年は8件を数え、22年1件、23年3件とやや落ち着いた。
この間のTOB件数(届け出ベース)は2019年46件、20年60件、21年70件、22年59件、23年74件で、21年は不成立が全体の1割超を占めた形だ。
ホリイフードサービスは6月14日、麻布台1号有限責任事業組合によるTOBが不成立になったと発表した。ホリイフードは北関東を地盤に、居酒屋「隠れ菴 忍家」をはじめ、牛タン店、イタリア料理店、もつ鍋店などの飲食店を展開する。
CD・DVDショップ「玉光堂」などを運営する玉光堂ホールディングス(東京都港区)が組合員の麻布台1号は、昨年7月に破産手続き開始を申請したOUNH(東京都新宿区)が所有するホリイフード株52.5%を破産管財人から取得することを目的に5月半ばにTOBを開始。ホリイフードも賛同する友好的なTOBだったが、予想外の展開になった。
麻布台1号に対抗して、シティクリエイションホールディングス(東京都板橋区)がホリイフードにTOBを行う予定であることが6月10日に明らかになったからだ。シティクリエイションはホリイフード株の買付価格について、麻布台1号の330円を62円上回る392円を提示した。
破産管財人はシティクリエイションの買収提案を検討するため、当初予定していた麻布台1号のTOBへの応募を取りやめる一方、麻布台1号側も買付価格引き上げなどの条件変更を見送り、ゲームオーバーの格好となった。
シティクリエイションは営業代行やマーケティング、ベンチャーキャピタル事業のほか、飲食店向けモバイルオーダーシステム、タブレット型接客端末などの導入支援などを手がける。7月中旬にTOB開始を予定している。ホリイフードがこのTOBに賛同するのか意見表明の行方が当面の関心事だ。
また、6月初めにはAZ‐COM丸和ホールディングスがC&Fロジホールディングスに5月から実施中のTOBに関し、1株3000円とする買付価格を引き上げないことを発表した。買付期間は6月19日までだが、これを待たず子会社化を事実上断念した。C&Fロジをめぐっては佐川急便を傘下に持つSGホールディングス(HD)が1株5740円で対抗TOBを始めたのに伴い、AZ‐COM丸和の出方が注目されていた。
C&FロジはAZ‐COM丸和のTOBに反対し、後から参戦したSGHDのTOBに賛同した。
2023年暮れから今年初めにかけては福利厚生サービス大手のベネフィット・ワンをめぐる大型買収合戦が記憶に新しい。
医療情報サービス大手のエムスリーによるTOBが進行しているところに、第一生命ホールディングスが割って入り、エムスリーを上回る買付価格を提示し、争奪戦を制した。買収総額は2900億円規模に達した。こちらのケースでも「待った」をかけた側が買収を成功させた。
同じ2023年の焼津水産化学の案件ではTOB開始後、旧村上ファンド系の投資会社による大量保有が判明し、株価が買付価格を上回る高値圏で推移したことが不成立につながった。焼津水産は今年、別のTOBを受け入れ、株式を非公開化した。
TOB不成立がピークだった2021年は8件中、敵対的案件が半数の4件を占めた。このうち3件はアクティビスト系の投資ファンドが買付者だった。敵対的TOBでは経営陣による買収防衛策の導入などの対抗措置がTOB成立の阻止につながることが多い。
同年の残る4件はいずれもMBO(経営陣による買収)を目的とする案件。MBOでは買付価格が企業価値に照らして低過ぎるとして疑義を唱える投資家、アクティビストも増えていることが関係していると考えられる。
2020年に不成立だった6件も半数の3件が敵対的TOBだった。
TOB合戦に発展した場合、後から名乗りを上げた側が断然有利となる。2020年、島忠の争奪戦でも、DCMホールディングスに対抗TOBを仕掛けたニトリホールディングスが勝利した。
ただ、例外はある。それが2017年、情報機器販売会社のソレキアをめぐるTOB戦。フリージア・マクロス会長で実業家の佐々木べジ氏によるTOBに反対したソレキアの意向を受けた富士通がTOBで対抗したが、富士通が敗れた。
さらに、2022年の東洋建設では前田建設工業を傘下に置くインフロニア・ホールディングスがTOBを実施中に、任天堂創業家の資産管理会社が対抗TOBの意向を表明。これにより、東洋建設株価が買付価格を大きく上回り、TOBが不成立に終わったが、任天堂創業家によるTOBは東洋建設の同意が得られず、結局行われなかった。
◎2010年以降:TOB不成立の一覧(年はTOB開始時期に基づく)
年 | 対象企業(経営陣の意見) | 買付者 |
2024 | ホリイフードサービス(賛成) | 麻布台1号投資事業有限責任組合 |
2023 | T&K TOKA(反対) | 英ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドなど |
〃 | 焼津水産化学工業(賛成) | J-STAR |
〃 | ベネフィット・ワン(賛成→留保) | エムスリー |
2022 | 東洋建設(賛成) | インフロニア・ホールディングス |
2021 | 日邦産業(反対) | フリージア・マクロス |
〃 | 日本アジアグループ(反対) | シティインデックスイレブンス |
〃 | サカイオーベックス(賛成) | MBO |
〃 | 光陽社(賛成) | MBO |
〃 | インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(反対) | 米スターウッド・キャピタル・グループ |
〃 | 富士興産(反対) | アスリード・キャピタル(シンガポール) |
〃 | パイプドHD(賛成) | MBO |
〃 | 片倉工業(賛成) | MBO |
2020 | 東芝機械(反対) | シティインデックスイレブンス |
〃 | 澤田ホールディングス(反対) | META Capital |
〃 | 島忠(留保) | DCMホールディングス |
〃 | 京阪神ビルディング(反対) | ストラテジックキャピタル |
〃 | 日本アジアグループ(賛成) | 米カーライル・グループ |
〃 | 東亜石油(賛成) | 出光興産 |
2019 | 廣済堂(賛成) | 米ベインキャピタル |
〃 | 廣済堂(中立) | 南青山不動産 |
〃 | ユニゾホールディングス(反対) | エイチ・アイ・エス |
〃 | ユニゾホールディングス(賛成→反対) | 米フォートレス |
2017 | ソレキア(賛成) | 富士通(対抗TOB末に敗れる) |
〃 | 東栄リーファーライン(賛成) | MBO |
2012 | アコーディア・ゴルフ(反対) | PGMホールディングス |
※MBOは経営陣が参加する買収
文:M&A Online
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