【解説】東洋建設のTOB攻防戦 買収提案と防衛策の動向

alt

任天堂創業家の資産運用会社が海洋土木大手の東洋建設に対し、全株取得を目的とするTOB(株式公開買付け)を予告し株式市場から注目を集めている。東洋建設をめぐっては前田建設工業を中核としたインフロニア・ホールディングスによるTOBが先月不成立となったばかり。6月24日に開催される株主総会での結論が待たれるところだ。TOB実務に詳しい柴田堅太郎弁護士に事案を整理してもらった。

◆ ◆ ◆

任天堂の創業家である山内家を背景に持つ「ファミリーオフィス」であるYamauchi No.10 Family Office(以下「YFO」という。)を実質的な支配者とするWK 1 Limited、合同会社Vpg、株式会社KITEなどの法人5社ら(以下「YFOら」という。)による東洋建設の賛同に基づかない公開買付け予告及び東洋建設によるそれに対する買収防衛策(但し、東洋建設は買収防衛策と称していない。)の導入が話題となっている。

本件は先行するTOBが存在する、当事者間で多くの書簡が繰り返されるなど比較的複雑な事案であるが、本稿では公表資料から得られる情報をもとに、本件を理解する上で特に重要と思われるポイントを紹介したい。

1.本件の経緯

    本件の経緯は大要以下のとおりである(いずれも2022年)。

    3月22日 インフロニア・ホールディングス(以下「インフロニア」という。)が東洋建設株式の公開買付け(以下「インフロニアTOB」という。)を開始し、東洋建設がインフロニアTOBに対する賛同及び応募推奨の意見表明を行う。インフロニアTOBは、発行済株式の全部を買付の対象とし、公開買付価格を770円としている。なお、インフロニアの完全子会社である前田建設は、東洋建設の約20.19%の議決権を保有し、同社を持分法適用会社としていることから、利害関係のある者による公開買付けとして特別委員会の設置等の公正性担保措置が取られた。
    3月29日 WK 1 Limitedが東洋建設の株式を市場で取得し、議決権割合10.03%に至り、同社の主要株主となる(4月5日付で大量保有報告書(変更報告書)を提出)。
    4月8日 WK 1 Limitedが東洋建設の株式を市場で追加取得し、議決権割合20.77%に至り、同社の筆頭株主となる(4月15日付で大量保有報告書(変更報告書)を提出)。
    4月28日 YFOらによるその後の市場における東洋建設株式の追加取得(合計27.19%)、YFOらによる公開買付価格を1,000円(インフロニアTOBの公開買付価格を230円上回る)とする提案等を受け、東洋建設は、インフロニアTOBに対して賛同表明は維持しつつも、応募推奨から株主の判断に委ねる旨の意見変更を行う。
    5月18日 YFOの事業会社であるVpg及びKITEが、6月下旬をめどに、公開買付価格を1,000円とし、東洋建設株式の全部を対象とする公開買付け(以下「YFOらTOB」という。)の予告を行う。
    5月20日 インフロニアTOBへの応募が買付予定数の下限を満たさず、不成立となる。
    4月18日以降現在に至るまで 東洋建設とYFOがYFOらの株式取得等をめぐり書簡のやりとり及び面談を行う。
    5月24日 東洋建設が、いわゆる特定標的型買収防衛策(以下「本買収防衛策」という。)を導入する。なお、本買収防衛策は、6月24日開催予定の東洋建設定時株主総会(以下「本定時株主総会」という。)において承認されない場合には廃止される。また、本定時株主総会では、YFOら及びその関係者(特定株主グループ)が本買収防衛策に定める大規模買付ルールに重大な違反をして大規模買付行為等を行った場合に対抗措置を講じることの承認議案についてもあわせて上程される。
    5月25日 東洋建設が、本定時株主総会に関して大阪地方裁判所に対して総会検査役の申立てを行う。
    6月8日 YFOらが、東洋建設に対して、同社取締役会が賛同・応募推奨を行わない限りYFOらTOBを実施しないこと、また、2023 年 5 月 24 日までの間、東洋建設の事前の同意なく株式の追加取得及び本買収防衛策に定める「大規模買付行為等」を行わないこと等を内容とする誓約書を提出する。
    6月9日 東洋建設が、議決権行使助言会社ISSが本定時株主総会における本買収防衛策承認・対抗措置発動議案について反対を推奨したことに対する見解を公表する。
    6月24日 本定時株主総会開催予定日

    2.買収者及び買付提案の特性

    近時の敵対的買収防衛事例と比較して、YFOらと、YFOらTOBの内容については以下のような特徴が見られる。

    ・YFOは、「事業会社やファンドと異なり、ファミリーオフィスという性質上多くのステークホルダーを抱えておらず、かつ一定期間で利益を確定しなければならないという制限もないことから、投資期間(Exit 期間)を限定せず、出資先経営陣とともに、事業会社やファンドが貴社の親会社となる場合では実行できないような長期的な成長・企業価値向上を目指した投資を実行することが可能」であるとしている。
    ・YFOらTOBは東洋建設取締役会の賛同及び応募推奨意見を開始の前提条件としており、YFOらは友好的買収であるとの立場を一貫して取っている。
    ・東洋建設が賛同、応募推奨(応募推奨はのちに撤回)したインフロニアTOBの公開買付価格730円を上回る1000円を提示している。
    ・YFOらTOBは、インフロニアTOBと同様、議決権割合3分の2を下限とする全部取得を条件としており、市場での取得その他の公開買付けによらない買付け、上限を設ける部分買付け、下限を設けない買付けなど、類型的に強圧性が高いとされるものではない。
    ・YFOらは、東洋建設経営方針・企業価値向上策について、約140ページにもわたる詳細なプレゼンテーション資料を提出している。

    柴田 堅太郎 (しばた・けんたろう)

    所属弁護士会
    第一東京弁護士会・2001年登録(司法修習54期)
    ニューヨーク州弁護士・2007年登録

    取扱分野
    M&A、組織再編、ジョイントベンチャー、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、 敵対的買収防衛、株主総会指導、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件、コンプライアンス、労務問題、企業法務全般

    柴田・鈴木・中田法律事務所 HP
    http://www.ssn-law.jp/


    NEXT STORY

    M&A法制を考える インフロニアによる東洋建設のTOB不成立にみるTOB規制の課題

    M&A法制を考える インフロニアによる東洋建設のTOB不成立にみるTOB規制の課題

    2022-05-31

    インフロニア・ホールディングスによる東洋建設株式の公開買付け(TOB)期間中における任天堂創業家の資産運用会社であるヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)による「市場内買付け」が話題となっている。