東京証券取引所の市場区分変更から2年余り。上場維持基準を下回っていても暫定的に上場を認める「経過措置」が2025年3月以降に順次終了する。そして経過措置の終了から1年たっても基準を満たさない場合は上場廃止に追い込まれる。タイムリミットが迫る中、上場維持基準への抵触を引き金とするTOB(株式公開買い付け)が広がる気配も見え隠れする。
マンション管理大手の日本ハウズイングに対するTOBが5月23日に始まった。MBO(経営陣による買収)を通じて株式を非公開化するのが目的で、同社創業者で現会長の小佐野文雄氏が米金融大手のゴールドマン・サックスと組んだ。買付代金は最大769億円に上る。
ではMBOを選択した理由は何だったのか。MBOは自ら上場企業の看板を下ろし、株式市場から退場することを意味し、究極の買収防衛策ともいわれる。
日本ハウズイングが主力とするマンション管理事業は建物の老朽化、居住者の高齢化、管理人の高齢化という「3つの老い」問題に直面。事業環境が大きく変化する中、目先の業績や株価にとらわれず、中長期的な視点で構造改革を進めるには非公開化が必要と判断した。
ただ、理由はこれだけではない。立ちはだかっていたのが上場維持基準の壁だ。
日本ハウズイングは東証スタンダード市場の上場企業。スタンダード市場では流通株式比率25%以上という上場維持基準が設けられている。これに対し、同社の3月末時点の流通株式比率は14.35%。将来的に上場基準への抵触により上場廃止になる可能性が否定できず、MBOによって株式の売却機会を提供することは株主の利益を確保するうえで合理的な選択だとしている。
今年に入り、日本ハウズイングと同様の事情からTOBに発展したケースがもう1つある。その会社は東邦金属。約31%の株式を保有する筆頭株主の太陽鉱工(神戸市)によるTOBが3月に成立し、東邦金属は4月に東証スタンダード市場への上場が廃止となった。
同社の場合、流通株式時価総額がかねて上場維持基準の10億円を下回る状態にあったことから、上場廃止の可能性を想定し、筆頭株主との資本関係の一体化を検討していた末の決断だったという。
東証がプライム、スタンダード、グロースの3市場に再編されたのは2022年4月。この時、大株主や役員などの保有分を除く流通株式時価総額がプライムなら100億円以上、スタンダード10億円以上、グロース5億円以上といった4項目の上場維持基準を設けた。
上場維持基準の未達企業でも上場を認める「経過措置」は2025年3月以降に順次終了となる。措置終了後も基準を達成していない場合、1年間の改善期間が与えられ、それでも満たされなければ、監理・整理銘柄に指定され、上場廃止となる。
◎東証:上場維持基準(カッコ内は市場別の上場数、5月22日時点)
市場区分 | プライム | スタンダード | グロース |
(1648社) | (1604社) | (581社) | |
株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
流通株式数 | 2万単位以上 | 2000単位以上 | 1000単位以上 |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 |
流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
東証市場再編があった2022年以降のTOB案件を対象に、上場維持基準への抵触を主な理由とするケースを適時開示資料をもとに調べたところ、2022年5件、23年2件で推移し、24年はここまで2件が認められた(一覧表参照)。
2022年は年間のTOB件数が59件(届け出ベース)だったので、その1割近くを占めたことになる。2022年の5件をみると、そろって上場維持基準の一つである流通株式比率を達成することが容易ではないことをTOB受け入れの理由に挙げている。また、ホウスイ(当時東証1部上場)を除くと、いずれもスタンダード上場企業。TOBの内容は4件が親会社・筆頭株主による完全子会社化、1件がMBOだった。
◎2022年~:上場維持基準への抵触を主な理由としたTOB一覧
TOBの対象者 | 内容 | |
2022年 | ホウスイ | 親会社の中央魚類による完全子会社化 |
〃 | チヨダウーテ | 筆頭株主のドイツ企業による完全子会社化 |
〃 | サコス | 親会社のニシオホールディングスによる完全子会社 |
〃 | 倉庫精練 | 親会社の丸井織物による完全子会社化 |
〃 | アイ・テック | MBOで株式を非公開化 |
2023年 | ロックペイント | MBOで株式を非公開化 |
〃 | AmidAホールディングス | ラクスルによる完全子会社化 |
2024年 | 東邦金属 | 親会社の太陽鉱工による完全子会社化 |
〃 | 日本ハウズイング | MBOで株式を非公開化 |
翌2023年の2件はスタンダード上場のロックペイントのMBOと、グロース市場上場のAmidAホールディングスに対するラクスルの完全子会社化案件。いずれも流通株式比率の未達状態がきっかけとなった。
プライム上場の基準未達企業に対しては、本来必要な審査を免除してスタンダードに移行できる救済措置を講じた(昨年10月に177社が移行)。救済措置の適用を申請しなかったプライム企業があるほか、スタンダード、グロースではそもそも救済措置がなく、タイムリミットを見据え、各社は上場維持に向けて対策に追われている。
その過程で、真逆ともいえるTOB受け入れやMBOによる上場廃止も選択肢の一つとなりそうだ。
文:M&A Online
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新生銀行は18日、SBIホールディングスが実施している株式公開買い付け(TOB)に対する意見表明を引き続き留保すると表明した。