2022年のTOB(株式公開買い付け)件数が10月17日に50件(届け出ベース)に到達した。年間70件と12年ぶりの高水準を記録した前年とほぼ同ペースで推移しており、4年連続の増加が確実な情勢だ。
その半面、昨年までとの最大の違いはTOB戦線が穏やかなこと。敵対的TOBが昨年、一昨年と各5件に上ったのに対し、2022年は今のところゼロで、予定通りに株式を買い付けられずTOBが不成立に終わるケースも1件にとどまる。
持ち帰り弁当「ほっともっと」や定食店「やよい軒」を展開するプレナス(東証プライム上場)の株式非公開化を目的するTOBの届け出が10月17日にあり、同日から買い付けが始まった。今年に入って50件目のTOBで、50件到達は昨年より2日早い。
プレナスを巡るTOBはMBO(経営陣による買収)の一環として行われるもので、塩井辰男社長ら創業家の資産管理会社でプレナス株の41.14%を保有する塩井興産(長崎県佐世保市)が残る58%余りの株式取得を目指している。買付代金は最大598億円。MBOとしては今年11件目となる。
TOB件数はコロナ禍が起きた2020年を境に顕著な増加を示している。2020年に前年比14件増の60件と過去10年間で最多となった。コロナ以前は長らく年間40~50件台で行ったり来たりし、2014年には36件まで低下した。
2021年は70件と2009年(79件)以来の高水準を記録し、70件台に乗せるのも12年ぶりだった。こうした流れを受け継ぐ形で2022年もここまで前年に並ぶハイペースで推移している。例年、秋から年末にかけてTOBの件数が積み上がるのがパターンだけに、前年を超える可能性もある。
2022年TOB戦線の特徴をあげれば、件数の割にこれといった“事件”もなく平穏に推移している点だ。
給食大手のシダックスに対して食品宅配大手のオイシックス・ラ・大地が8月末に始めたTOBを巡ってはシダックス取締役会が反対を表明。これにより、今年初の敵対的TOBに発展していたが、10月に入ってシダックスが反対を取り下げ、中立に意見表明の内容を変更したことで、「敵対的」状況はひとまず解消された。オイシックスによる買付期間は10月24日まで。
敵対的TOBは昨年、一時、最多の年間6件(最終的に5件)に達した。インターネット金融大手のSBIホールディングスによる新生銀行(旧日本長期信用銀行)へのTOBが国を巻き込む攻防戦となったのは記憶に新しい。新生銀行はTOBに猛烈に反対していたが、最終的には反対を撤回した経緯がある。
敵対的TOBは2007年の5件をピークに以降、年間1件前後で推移した後、2019年に3件と動意づき、2020年5件、2021年も流れは変わらなかった。それが2022年は一転、急ブレーキがかかった格好となっている。
今年、TOBが不成立になったのは1件だけで、昨年の8件と比べると様変わり。前田建設工業を中核とするインフロニア・ホールディングスが海洋土木大手の東洋建設に行ったTOBが不調(3月)に終わったのがそれ。東洋建設に対しては任天堂創業家の資産管理会社が11月下旬実施をめどにTOBを提案中だ。
文:M&A Online編集部
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