SBIホールディングスによる新生銀行のTOB価格は高すぎる?

alt
新生銀行本店(東京・日本橋室町)

SBIホールディングス<8473>による新生銀行<8603>への株式公開買い付け(TOB)が話題になっています。

2021年9月9日、SBIホールディングスは、すでに発行済み株式の20.32%を保有している新生銀行に対し、48%を上限としてTOBによる持分買い増しを行うことを公表しました。買収価格は2,000円/株で、公表直前(9日)の終値は1,440円/株でしたので、プレミアムは38.9%となります。

リリースはこちら

この発表を受けて、翌日(10日)の株価はストップ高張り付きとなり、翌営業日(13日)の高値はTOB価格を超える2,022円を記録しました。しかし、本件TOBは全株式が買い取り対象となるわけではありません。応募多数の場合は按分比例となりますので、そのリスクを織り込んで終値はTOB価格を若干下回る1,966円となり、その後15日の終値は1,890円まで続落しました。

新生銀行の株価終値推移
©筆者作成

さて、市場では乱高下しましたが、このTOB価格(2,000円/株)は、高いのでしょうか、安いのでしょうか。証券アナリストの視点で検証してみたいと思います。

TOBプレミアムはかなり高い

本件TOBは、上限を48%にとどめるため、買収後のスクイーズアウトを想定せず、上場も維持されることから、一般的なプレミアムの水準感はやや低く、通常であれば20%前後がせいぜいであると考えられます。その中で38.9%というプレミアムは、かなり高い水準と言えるでしょう。

ファンダメンタルズから見てもやや強気な水準

では、この2,000円という買付価格はファンダメンタルズから見ても強気な水準なのでしょうか。

PBRが重視される銀行株

銀行は一般的な事業会社と異なり、株主資本に負債でレバレッジをかけて貸出債権や市場商品等の時価評価される金融商品に投資し、利ザヤを株主に還元するというビジネスモデルであるため、貸借対照表の借方も貸方もほとんど時価ベースとなることや、景気変動に対して非常に敏感で赤字黒字を繰り返しやすいことなどから、市場ではPBRが重視されます。

そこで、新生銀行と純資産規模の近い専業銀行5社及び3メガバンクのPBR、会社予想EPSに基づく予想ROEを比較してみると、以下の通りとなります。

新生銀行と純資産規模の近い専業銀行5社及び3メガバンクのPBR、会社予想EPSに基づく予想ROE
©筆者作成

TOB価格ベースの新生銀行のPBRは0.46倍であり、同規模行平均の0.42倍や3メガの平均0.45倍よりも高いです。

一方で純資産の増加速度を示すROEは会社予想ベースで4.3%と、同規模行平均4.4%、3メガ平均5.1%に対して見劣りする水準です。にもかかわらず、高いPBRをつけていますので、SBIとしては買収後の収益力改善に強い自信があるのでしょう。ファンダメンタルズから見てもやや強気な価格といえると思います。

一般株主としては、この価格で売ることができれば満足しうる水準のTOB価格であると思います。

市場価格は期待値から見てやや割高に推移

では、市場価格はこのTOB価格を踏まえて適正水準まで調整されたのでしょうか。

全対象株式が応募された場合の買い取り確率は47.8%

今回のTOBは48%が上限で、SBIはすでに20.32%を保有済みですから、買い取り対象は発行済み株式の27.68%となります。

他方、SBIの次の大株主である公的資金(預金保険機構と整理回収機構の合計)の持分が21.8%あります。

現状、政府の方針として、公的資金が保有する新生銀行株式の損切りは納税者負担となるため許されないとしており、公的資金の取得原価7,450円(!)を下回る価格では売却しないとされておりますので、その価格の3分の1にも満たない今回のTOBに応募することはないと考えられます。

よって、実質的にTOBの対象となる株式の母数は、発行済み株式の約57%(=100%‐SBI既保有20.32%‐公的資金21.8%)となり、仮に全対象株式が応募された場合の買い取り確率は47.8%となります。

ここで、TOBがない場合のスタンドアロンのフェアバリューが公表直前終値1,440円であったとすると、期待値は、TOB価格2,000円*買い取り確率47.8%+TOB直前価格1,440円*(1-買い取り確率47.8%)=1,708円となります。

これに対して15日の終値1,890円は、期待値より10%割高な水準です。

市場価格が割高な水準で推移している背景としては、
1. SBI傘下での収益改善期待がある程度織り込まれている
2. ホワイトナイトが登場し、TOB価格の引き上げが期待されている
という2つの要素が考えられます。

市場は企業価値向上やホワイトナイト登場を期待か

まず、SBIは、買収後の構想として、様々な施策をプレスリリースの中で公表しており、この施策が新生銀行の企業価値を向上させる可能性があります。よって、市場参加者は、素直に一定程度の企業価値向上期待を織り込んでいる面があると考えられます。

他方、新生銀行はTOBへの賛否をまだ表明していませんが、16日付のプレスリリースで、「当行の認識としてSBIが公表した内容は不正確であり、重要な経緯が含まれていない」との声明を出しています。

リリースはこちら

報道によると、現取締役会はTOBに反対の意向であり、目下ホワイトナイトを複数の企業に打診しつつ、事後買収防衛策の導入を検討している模様です。

こうした状況下で、仮にホワイトナイトが現れるとしたら、TOB価格が引き上げられるという観測が浮上し、株価が期待値よりも割高に推移している可能性もあるでしょう。

いずれにしても、今後の展開に注目が集まり、それに一喜一憂するように株価が動くのではないかと思います。

文:巽 震二(証券アナリスト/フリーランス・マーケットアナリスト)

※本記事に記載されている個別の銘柄・企業名については、あくまでも執筆者個人の意見として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。

参考URL:
SBI 地銀ホールディングス株式会社による公開買付けにかかる意見表明に向けた当行の検討状況について
https://www.shinseibank.com/
株式会社新生銀行株式(証券コード:8303)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ
https://www.sbigroup.co.jp/

巽 震二 (たつみ・しんじ)

フリーランスマーケットアナリスト。
証券アナリストとして大手証券会社調査部勤務後、専業個人投資家に転身。
アベノミクスの波に乗って2015年、目標資産残高を達成し、トレーディングもめでたく卒業。 現在はフリーランスマーケットアナリストとして活動中。本連載はペンネームで寄稿している。


NEXT STORY

SBIによるTOB対応で新生銀、現時点で決定事実はないと発表

SBIによるTOB対応で新生銀、現時点で決定事実はないと発表

2021/09/15

9月15日、新生銀行は、SBIホールディングスによる株式公開買い付け(TOB)に関連して、「様々な検討を行っている」としたものの、現時点において決定している事実はない、とするコメントを発表した。