経済活動のグローバル化とともに、国境を越えたM&Aが活発化する中、日本企業が主要プレーヤーの一員となって久しい。先には武田薬品工業が7兆円近くを投じてアイルランド製薬大手、シャイアーの買収を決め、耳目を集めた。そんな折、大型M&Aの舞台裏を知るうえで格好の一冊が『ゴールドマン・サックス M&A戦記』(日経BP社)だ。著者の服部暢達さんは、世界最強の投資銀行といわれるゴールドマン・サックス時代、日本の企業史に残るM&Aで数多くの“戦果”を上げた。

大型M&Aの“インサイダー”として特異な経験

ーゴールドマン・サックスといえば、飛び切り優秀な学生の到達点で、富と名誉の象徴ともいわれますが、実際はどうなのでしょうか。

米国では20~30年前、コンサルティング会社もしくは投資銀行がビジネススクール(経営学大学院)の卒業者にとって2大就職先。半数がどちらかに進んでいたので、そんなに特殊ではなかった。バイアウト・ファンド(投資ファンド)はある程度経験を積んだ後にいくところで、卒業してすぐに就職する人はまずいなかった。

私は1989年にゴールドマン・サックスに入社したが、当時、日本では投資銀行のことはほとんど理解されていなかった。要は証券会社なのだが、一般の商業銀行との違いが分からず、不思議な存在に思えたようだ。同じ投資銀行の中でも、ソロモン・ブラザースやメリル・リンチがブローカレッジ(株や債券の売買仲介)から出発した会社だったのに対し、ゴールドマン・サックスはモルガン・スタンレーとともにプライマリー(株や債券の引き受け)から発展した会社だったので、もともとM&A関係の業務に強みがあった。

ー執筆の動機は。

ゴールドマン・サックスではニューヨーク本社での1年間と東京での勤務を合わせて14年半を過ごした。さまざまな大型M&A案件のインサイダーとして居合わせるという特異な経験をした。30代~40代の通常のビジネスマンがまず経験することのない濃密なものだった。いろいろな形でM&Aにかかわる人たちに、私の経験が参考になればという思いがずっとあり、いつか書いてみたかった。自身、2003年にビジネスの世界から離れて15年。そろそろ時効を過ぎたかなと判断し、一冊の本にまとめた。

ー物語風でテンポ良く、活劇をみるかのようです。

本書はノンフィクション。ただ、どうしても書けないことがある。買収金額などの数字はフェーク(にせもの)。臨場感を出すためにかなり具体的に書いているが、これらの数字はまったく的外れというわけではないものの、正確性も完全性も欠いている。あくまで雰囲気を理解してもらうために参考として記したので、その点は誤解のないようにお願いしたい。数字以外は詳述できない部分があったにせよ、すべて事実といって差し支えない。