M&Aに関わる士業は、公認会計士や税理士だけではない。労務デューデリジェンスPMI(M&A実行後の統合プロセス)の面で社会保険労務士も重要な役割を果たしている。国が推進する「働き方改革」の面からも、重要性を増すM&Aの労務。その仕事の実際を特定社会保険労務士の佐藤広一さんに聞いた。

最初は公認会計士さんについて回りました

ーM&Aに関わるお仕事をされるようになったきっかけは。

2000年に開業して10年近く経った頃でしょうか、これまでの社労士業務の概念にない、私自身の新たな職域とか事業領域を築いていきたいと考えていた時期がありまして。「M&Aについては法務や財務はそれぞれ弁護士さんや会計士さんが担当しているのに、労務は十分に手当てできていない」と素朴に思って手探りで始めました。小さな会社の事業承継IPO(新規株式公開)に関する労務相談は、それ以前からニーズに応じて対応をしていたのですが、M&Aを事業領域に、とイメージしはじめたのはその時期です。

 手探りというのは?

懇意にしている公認会計士さんに「M&Aの労務の領域を手伝わせてもらえませんか」と相談し、しばらくはその公認会計士さんについて回った。そういったことから、次第に他の税理士さんやクライアントなどの案件をお手伝いすることになったわけです。

ー当時、公認会計士、税理士さんはどんな反応をされていましたか。妙な“縄張り意識”もあったのではないですか。

むしろ、逆でしたね。会計士さん、税理士さんも財務デューデリジェンスには詳しくても、正直なところ労務の部分は手薄な面があって、「助かってるよ」といっていただきました。

ー事業領域として取り組みを始めた頃のエピソードをいくつかお願いします。

当時、その公認会計士さんの事務所には5人の会計士がいて、私が加わって6人で対応していました。ある団体の事業統合の監査で、労務面は私が担当したのですが、規模が大きかったこともあり、給与や退職金、福利厚生面などの額も大きく、また、未払い残業代や厚生年金基金の掛け金、退職金の引き当ては簿外債務としているような面もある。そのようなものを精査していく仕事に、「ここは社会保険労務士がやらないといけない仕事だ」と手応えのようなものを感じましたね。加えて、この仕事は「横展開できるな」と……。

ーそして、現在は?

当社もいまはスタッフが14人います。そのうちの3〜4人を中心にM&A案件に対応しています。もちろん、財務や法務に関しては会計士さんや弁護士さんに協力いただいて、一緒に進めていく。社会保険労務士の仕事は従来、チームで対応するということ自体が少ない面があるので、その点でも新鮮ですね。