【解説】東洋建設のTOB攻防戦 買収提案と防衛策の動向

alt

5.本定時株主総会の議決権

    ISSは本買収防衛策関連議案に反対の議決権行使を推奨している。また、YFOらはのちに6月8日付誓約書において、上記3(1)の前提条件の放棄という導入意図については、前提条件を放棄しない旨を誓約し、3(2)のスタンドスティル期間の短さについては2023年5月24日までと約1年弱延長する旨を誓約している(その上で本買収防衛策関連議案の取り下げを求めている)ことから、もはや本買収防衛策を継続する必要性は失われたともいえる。しかし、このような状況の中でも、東洋建設はなお本買収防衛策関連議案を本定時株主総会に上程する意図を有している。

    その背景としては、推測に過ぎないが、YFOらの議決権割合がまだ小さい本定時株主総会において本買収防衛策導入の承認を得ておきたいという狙いがあったのではないか。すなわち、YFOらが大きな議決権割合を獲得したのは本定時株主総会の議決権行使の基準日である3月31日より後のことであり、本定時株主総会では本買収防衛策関連議案を否決しうるだけの大きな影響力をまだ有していない。

    これに対し、もし4月以降で買収防衛策の導入又は発動議案を上程した場合、YFOらは約27%の議決権を持つ筆頭株主であるため、否決される可能性が高まる(東京機械製作所の事案のように対抗措置発動議案についてYFOらの議決権を排除したいわゆるマジョリティオブマイノリティによる決議を採用することも考えられるが、常にその有効性が認められるとは限らないし、約20%、第2位の前田建設の議決権も排除しなければならなくなるため、実効的とはいえないのではないか。)。

    特定標的型・有事導入型の買収防衛策も、株主総会の承認を得て導入しておけば、将来、大規模買付者が大規模買付ルールに違反した際に、取締役会限りで、つまり株主総会の意思確認を得ずに対抗措置を発動できる可能性が高まる(より法的安定性を高め、差止めのリスクを軽減することができる)ことは、日邦産業の判決でも認められ、期待できるところであるから、できるだけ承認を得ておきたいと考えることも合理的だったのではないかと推察される。

    YFOらという約27%もの大きな議決権を保有する、現経営陣にとって必ずしも望ましいとは言えないであろう筆頭株主が現れたため、東洋建設経営陣としては本件に関してなんらかの出口を模索しなければならないはずであるから、本定時株主総会までの間も、YFOらのみならず、ホワイトナイトとなりうる者らとの間で水面下での交渉を継続していることが予想される。

    交渉力を維持継続させるためにも、本定時株主総会というまだYFOらの議決権が小さい絶好の機会を活かして、本買収防衛策の承認を得て、対抗措置発動を背景にした「対等な交渉力」を確保しておくことは極めて重要であったものと思われる。本定時株主総会の結果を含む本件の続報が待たれる(6月12日脱稿)。

    文:柴田堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)

    柴田 堅太郎 (しばた・けんたろう)

    所属弁護士会
    第一東京弁護士会・2001年登録(司法修習54期)
    ニューヨーク州弁護士・2007年登録

    取扱分野
    M&A、組織再編、ジョイントベンチャー、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、 敵対的買収防衛、株主総会指導、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件、コンプライアンス、労務問題、企業法務全般

    柴田・鈴木・中田法律事務所 HP
    http://www.ssn-law.jp/


    NEXT STORY

    M&A法制を考える インフロニアによる東洋建設のTOB不成立にみるTOB規制の課題

    M&A法制を考える インフロニアによる東洋建設のTOB不成立にみるTOB規制の課題

    2022-05-31

    インフロニア・ホールディングスによる東洋建設株式の公開買付け(TOB)期間中における任天堂創業家の資産運用会社であるヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)による「市場内買付け」が話題となっている。