【2023年小売業界のM&A】セブン&アイ、今年も主役の座を譲らず 豪コンビニ運営会社を1672億円で買収

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2023年8月31日、東京・池袋駅東口は異様な空気に包まれた。東口の顔である西武池袋本店は開店時間を過ぎてもシャッターは閉じたまま。労働組合がストライキを決行し、臨時休業となったのだ。

この日、セブン&アイ・ホールディングスは臨時取締役会を開き、傘下の百貨店「そごう・西武」を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに9月1日付で売却することを最終的に決議した。売却は当初2月1日が予定(2022年11月に発表)されていたが、2度の延期を経て、労使の溝が埋まらないまま、時間切れの形で決着をみた。

西武池袋本店前(2023年8月31日)

セブン&アイ、豪のコンビニ事業で攻勢

売却をめぐる迷走劇を演じながらも、2023年の小売業界のM&A戦線で良くも悪くも主役の座を譲らなかったのはやはりセブン&アイだった。11月末、今度は攻めの一手を繰り出した。オーストラリアでコンビニ「セブンイレブン」約750店舗を運営する現地企業のコンビニエンス・グループ・ホールディングスの買収を発表した。

買収金額は約1672億円と小売業のM&Aとして2023年の首位に立つ。2024年4~6月に買収完了を見込む。人口増などを背景に高い成長が見込まれるオーストラリア市場での出店を加速する。

セブンイレブンの店舗は現在20カ国・地域に広がり、合計約8万3500を超える。このうち日本に約2万1400店、北米に約1万5400店を展開する。今後の成長戦略として日本・北米以外で5万店を目指しており、今回の買収で計画達成に大きく前進する。

セブン&アイといえば、2021年5月に米国第3位のコンビニ会社スピードウェイを約2兆3200億円で買収したことが記憶に新しい。

金額2位はホームセンター第2位のDCMホールディングスによるTOB(株式公開買い付け)案件。傘下に収めたのは千葉県発祥で同業中堅のケーヨーで、最終的な取得金額は約520億円。DCMはカインズと入れ替わり、売上高で業界トップに立つ公算が大きい。DCMは2020年秋、島忠を買収するためにTOBを始めたが、途中参戦した家具大手のニトリホールディングスの対抗TOBに敗れた苦い経験を持つだけに、捲土重来を果たした形だ。

年間52件、コロナ禍初年より25件減る

小売業を対象とした2023年のM&A件数は前出の2件を含めて52件(適時開示ベース、12月25日時点)と、前年を14件下回った。50件台は2021年(58件)以来で、過去10年間でも2015年(53件)に届かず、最低となった。コロナ禍初年の2020年77件と比べて25件の大幅ダウンとなるが、見方を変えれば、経済活動の正常化に伴い、かえって件数自体は落ち着いたともいえる。

件数が最も多かったのはスーパーの10件。これにEC(電子商取引)サイト関連9件、自動車ディーラー6件などが続いた。

子会社で手がけるスーパー事業(都内に3店舗)を売却したのは東北新社。外国テレビ映画の配給で知られる同社だが、1960年代初めに「ナシヨナル」の店舗ブランドでスーパー事業に参入し、当時の日本でまだ馴染みのなかったチーズなど輸入食材の品ぞろえで一世を風靡した。売却先はキユーピー・アヲハタグループの中島董商店(東京都渋谷区)。

イオンは首都圏で食品スーパーを展開するいなげやを11月末に子会社化した。TOBで17%余りの持ち株比率を51%に引き上げた。取得金額は252億円。2024年11月に、イオン傘下で「マルエツ」「カスミ」「マックスバリュ関東」の3つのスーパーを運営するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)にいなげやを経営統合する。これにより、「関東における1兆円のスーパーマーケット構想」がいよいよ実現する運びだ。

イオン、いなげやをTOBで子会社化

オプティマス、約260億で豪ディーラーを買収

北海道を本拠とするアークスは子会社を通じて、岩手県内陸・沿岸部に4店舗を持つ地場スーパーのみずかみ(遠野市)と2024年7月をめどに経営統合することで合意した。アークスは北海道、東北、北関東のスーパー10社を抱え、地域スーパー連合(約370店舗)を形成しており、みずかみの合流で11社目となる。

オプティマスグループは257億円を投じて、オーストラリアの有力自動車ディーラーAUTOPACTを買収した。AUTOPACTは新車以外に中古車、自動車ローン、パーツ販売、修理・アフターサービスまでフルサービスを提供する。日本テレビホールディングスは、ファッションECサイト大手のラベルヴィー(東京都港区)を子会社化した。物販事業の強化に向け、テレビ通販にとどまらず、デジタル化対応を加速する。

自ら株式市場から“退出”を決めたのはピーシーデポコーポレーション(10月に東証プライム上場を廃止)。野島隆久社長が主導するMBO(経営陣による買収)で非公開化した。ネット販売の普及などでパソコンの購買チャンネルが多様化する中、店舗に依存する従来型の事業モデルの転換を迅速に進めるためとしている。

◎2023年小売業を対象とした主なM&A

発表 内容
1月 クオールHD、栃木県を中心に調剤薬局38店舗展開のパワーファーマシーを子会社化
3月 コーナン商事、九州でホームセンター展開のホームインプルーブメントひろせを子会社化
4月 ラオックスHD、セブン&アイ・HD傘下で高級衣料品店「バーニーズニューヨーク」の運営会社を子会社化
イオン、食品スーパーのいなげやをTOBで子会社化
5月 アークス、傘下企業を通じて岩手県の地場スーパー「みずかみ」と統合へ
ピーシーデポコーポレーション、MBOで株式を非公開化
6月 東北新社、傘下企業が手がけるスーパー事業を中島董商店に譲渡
8月 ラクスル、印鑑ネット販売のAmidAホールディングスをTOBで子会社化
9月 オプティマスグループ、豪州の自動車販売会社AUTOPACTを子会社化
DCMホールディングス、ホームセンター中堅のケーヨーをTOBで子会社化
10月 ビジョナリーHD、国内ファンドの日本企業成長投資のTOBを受け入れて株式を非公開化
11月 セブン&アイ・HD、豪州「セブンイレブン」展開のコンビニエンス・グループ・HDを子会社化

文:M&A Online

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