「朝三暮四」は、目先の相違に気をとられ、結果が同じであることに気がつかないことを指す言葉です。中国宋代の狙公(そこう)が世話をしている猿にトチの実を「朝に3つ、夕方に4つやる」と言うと猿が怒り、逆に「朝に4つ、夕方に3つやる」と言うと猿が喜んだという故事にもとづくそうです。

どちらも同じ7つには違いありませんが、ファイナンス論の観点からは「朝に4つ、夕方に3つやる」を選んだ猿にも一定の合理性があるということができます。今回は現在価値と将来価値の違いについてお話したいと思います。

現在価値に「割り引く」という発想

今すぐもらえる100万円と1年後にもらえる100万円は同じ価値といえるでしょうか。特に金利やリスクの存在を考慮に入れると、1年後にもらえる100万円より今すぐもらえる100万円の価値の方が高いとするのがファインナンスにおける基本的な考え方です。

今すぐもらえる100万円の価値を「現在価値(PV, Present Value)」、1年後にもらえる100万円の価値を「将来価値(FV, Future Value)」と呼びます。ここで年利をrとすると、n年後の将来価値(FV)から現在価値(PV)を導き出す算式は下記のようになります。

・PV=FV/(1+r)^n

例えば、年利3%の時に1年後の100万円に対応する現在価値を算定すると、PV=100万円÷(1+0.03)^1=970,873円となります。つまり、1年後の100万円の価値は現在の100万円より低くなるということです。このように「将来価値」を「現在価値」に引き直して計算することを、財務の世界では「割り引く」と表現します。

退職給付債務に適用される割引率は国債利回りなど

割引計算は企業の会計処理においても様々な場面で使われています。また、割引計算に用いられる割引率にも様々なものが考えられます。

例えば、将来の退職一時金や退職年金のうち企業の負担となるものについては「退職給付引当金」ないしは「退職給付にかかる負債」として計上しなければなりません。これらの計上に際しては、当期までに発生していると認められる退職給付債務(PBO)を割引計算で算出するというプロセスが含まれます。

その際に使用される割引率は「安全性の高い債券の利回り」を基礎にするとされています。具体的には、期末における国債、政府機関債、優良社債などの利回りがこれに該当します(退職給付適用指針24項)。退職給付に関連する支出は長期的に発生するものであるため、その期間に応じた割引率を選定することにも注意しなければなりません。