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企業財務に頻出する「割り引く」という用語が意味すること しっかり学ぶM&A基礎講座(63)

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割引率が高くなると現在価値は低く計算される

固定資産の収益性低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に適用される減損会計においても割引計算が登場します。具体的には、固定資産の回収可能性を検討するため、固定資産の使用によって生じる将来キャッシュフローを現在価値に割り引く必要があります。

その際の割引率として会計基準では「当該企業における資産または資産グループに固有のリスクを反映した収益率」や「当該企業に要求される資本コスト」などが例示されています(固定資産減損適用指針45項)。

上述の退職給付会計の場合には無リスクの利子率に近い割引率でしたが、固定資産の減損会計においては一定のリスクやコストが加味された割引率が採用されています。一般に、割引率が高くなると現在価値は低く計算されるため、結果として回収可能性の判断を慎重に行う方向に働きます。

M&Aにおいて割引計算が登場する場面とは

このような会計処理上の計算だけでなく、M&Aに際してDCF法(Discounted Cash Flow Method)により企業価値評価を行う場合にも、事業から生み出される将来キャッシュフローを現在価値に割り引くことになります。その際の割引率としては企業の資本コストが考えられます。資本コストは資金の提供者が求める期待収益率とも呼べるものです。

具体的には、株主などの投資家に還元すべき「自己資本コスト」と金融機関などの債権者が要求する「負債コスト」から構成されます。これら2つのコストから算出される加重平均資本コストWACC, Weighted Average Cost of Capital)を用いるのが一般的です。

以上のように、財務の分野では頻繁に「割り引く」という行為が行われています。特に長期間にわたるキャッシュフローを割り引く場合には割引率の微小な差異が現在価値の算定に大きな影響をもたらします。どのような割引率が使われているのかを意識することで見積り計算や価値評価をより深く理解できるといえるでしょう。

文:北川ワタル(公認会計士・税理士)

北川 ワタル

経歴:2001年、公認会計士2次試験合格後、監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)、太陽監査法人(現太陽有限責任監査法人)にて金融商品取引法監査、会社法監査に従事。上場企業の監査の他、リファーラル業務、IFRSアドバイザリー、IPO(株式公開)支援、学校法人監査、デューデリジェンス、金融機関監査等を経験。マネージャー及び主査として各フィールドワークを指揮するとともに、顧客セミナー、内部研修等の講師 、ニュースレター、書籍等の執筆にも従事した。2012年、株式会社ダーチャコンセプトを設立し独立。2013年、経営革新等支援機関認定、税理士登録。スタートアップの支援からグループ会社の連結納税、国際税務アドバイザリーまで財務会計・税務を中心とした幅広いサービスを提供。

学歴:武蔵野美術大学造形学部通信教育課程中退、同志社大学法学部政治学科中退、大阪府立天王寺高等学校卒業(高44期)

出版物:『重要項目ピックアップ 固定資産の会計・税務完全ガイド』税務経理協会(分担執筆)、『図解 最新 税金のしくみと手続きがわかる事典』三修社(監修)、『最新 アパート・マンション・民泊 経営をめぐる法律と税務』三修社(監修)など

北川ワタル事務所・株式会社ダーチャコンセプトのウェブサイトはこちら


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