割引率が高くなると現在価値は低く計算される

固定資産の収益性低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に適用される減損会計においても割引計算が登場します。具体的には、固定資産の回収可能性を検討するため、固定資産の使用によって生じる将来キャッシュフローを現在価値に割り引く必要があります。

その際の割引率として会計基準では「当該企業における資産または資産グループに固有のリスクを反映した収益率」や「当該企業に要求される資本コスト」などが例示されています(固定資産減損適用指針45項)。

上述の退職給付会計の場合には無リスクの利子率に近い割引率でしたが、固定資産の減損会計においては一定のリスクやコストが加味された割引率が採用されています。一般に、割引率が高くなると現在価値は低く計算されるため、結果として回収可能性の判断を慎重に行う方向に働きます。

M&Aにおいて割引計算が登場する場面とは

このような会計処理上の計算だけでなく、M&Aに際してDCF法(Discounted Cash Flow Method)により企業価値評価を行う場合にも、事業から生み出される将来キャッシュフローを現在価値に割り引くことになります。その際の割引率としては企業の資本コストが考えられます。資本コストは資金の提供者が求める期待収益率とも呼べるものです。

具体的には、株主などの投資家に還元すべき「自己資本コスト」と金融機関などの債権者が要求する「負債コスト」から構成されます。これら2つのコストから算出される加重平均資本コストWACC, Weighted Average Cost of Capital)を用いるのが一般的です。

以上のように、財務の分野では頻繁に「割り引く」という行為が行われています。特に長期間にわたるキャッシュフローを割り引く場合には割引率の微小な差異が現在価値の算定に大きな影響をもたらします。どのような割引率が使われているのかを意識することで見積り計算や価値評価をより深く理解できるといえるでしょう。

文:北川ワタル(公認会計士・税理士)