前回の記事では、企業価値評価で考慮すべき「各評価手法におけるディスカウントの考え方」について解説しました。今回は、非公開会社特有の論点についてお話したいと思います。

流動性ディスカウントとは何か

まず、非公開会社の株式は、公開会社の株式に対して流動性(換金性)が低いと考えられます。仮に事業・財務内容等が全く同じである公開・非公開会社が2社あった場合、株式の値段が同じであれば、換金が容易な公開会社の株式を優先的に購入するのが一般的です。

そう考えると、非公開会社の株式の価値は、公開会社に比べると相対的に割安であり、その評価に際しては、ディスカウント(割引)が必要であると考えられます。その金額をどのように評価すればよいのでしょうか。

譲渡制限株式に関する研究(Restricted Stock Studies)

まずは米国の「譲渡制限株式に関する研究」から解説します。米国では公開会社が、SEC(Securities and Exchange Commission:米国証券取引委員会)への事前登録を行わずに、譲渡制限株式を私募で発行し、譲渡を行うことがあります。この譲渡制限株式は、投資会社が購入することになるのですが、SECの定めるRule144により、原則として、最低1年間は市場で売却することができずに、保有し続けなければならない等の制限が課されています。

譲渡制限株式には、換金性に上述のような制限があるため、投資会社の購入価格は、同じ会社の公開株式より低い株価となります。この公開株式の株価と譲渡制限株式の株価の違いは、流動性の欠如に関するディスカウントを表しているとするのが、譲渡制限株式に関する研究です。

米国では1970年代に、SECが投資会社(Investment Company)に対して、この取引記録を公表するように義務付けました。その結果、投資会社が購入する株式に対する非流動性ディスカウントを測定することが可能となり、非公開株式に対するディスカウントのための比較材料として利用されています。

譲渡制限株式に関する研究は、様々な研究者・機関等により発表されていますが、その結果を要約したものは、図1のとおりです。

図1

流動性ディスカウントの割合は、支配株主価値を持つ株式に対する場合と、少数株主価値を持つ株式に対する場合で異なると考えられています。そのため、非流動性ディスカウントを適用する場合には、その前段階で、コントロール・プレミアムまたはマイノリティ・ディスカウントを適用する必要があります。数値例で示すと、以下の図2のようになります。

図2

数値例は、支配株主価値を1,300、コントロール・プレミアムとマイノリティ・ディスカウントをそれぞれ30%、23.1%とした場合、支配株主価値と少数株主価値に対して、非流動性ディスカウントを適用するまでの過程をそれぞれに示したものです。

この数値例においては、非流動性ディスカウント前の支配株主価値、少数株主価値はそれぞれ1,300、1,000ですが、非流動性ディスカウントの割合は、支配株主価値に対して30%であるのに対して、少数株主価値に対しては、10%と減少させています。その結果、非流動性ディスカウント前の価値が高い支配株主価値に適用される非流動性ディスカウントの金額の方が小さい、という結果になります。

プレミアム・ディスカウントをそれぞれどう見るかによって、必ずしも同じ結果になるとは限りませんが、実際のM&Aの現場、特に非公開株式の取引において、支配権の有無は売買における重要な要素であり、支配株主価値を持つ株式は、少数株主価値を持つ株式に比べて相対的に流動性が高い、と考えるのが一般的でしょう。したがって、支配株主価値を持つ株式に対する非流動性ディスカウントの割合は、少数株主価値を持つ株式に比べて低くなる考え方も、実務上受け入れられています。

しかしながらこの論点に関連して、次のような論争が存在するので紹介したいと思います。