前回は、残余利益法について解説した。今回は、インカム・アプローチに属する「配当還元法」について、見ていきたい。
配当還元法(Ⅾividend Discount Method)とは、株主への直接的な現金支払いである「配当金」にもとづいて、株主価値を評価する方法である。株主における直接的な現金の受取額である配当金の期待値を割り引くことによって株主価値が直接に計算される。
多額の欠損が生じているために当面において配当できない企業、配当が見込めない成長企業については株主価値の計算が困難であり、配当が低位安定しているような企業は過小評価になりやすいという欠点がある。
従ってこの評価法は、企業の収益性が配当政策に正しく反映される場合に適している方法と言える。
なお、配当還元法と混同しやすい非上場株式を相続・贈与した場合の税金計算の時価算定における特例的な評価方式として、 「配当還元方式」がある。「配当還元法」と「配当還元方式」は、両者共に配当金額を用いる方法であるが、実際の計算方法はかなり異なることに注意したい。
それでは、配当還元法の計算方法についてみていきたいと思う。数値は、前回の設例と同様(※配当支払を除く)である。
-前提条件-
評価対象会社: A社
評価基準日 : 20×1年期末
A社の株主資本コスト:13%
・A社の損益情報等の予測
(単位:百万円) | 1年後 | 2年後 | 3年後 |
20×2年 | 20×3年 | 20×4年 | |
営業利益 | 3,300 | 3,960 | 4,356 |
支払利息 | 300 | 360 | 396 |
税引前利益 | 3,000 | 3,600 | 3,960 |
法人税等 | 1,200 | 1,440 | 1,584 |
税引後純利益 | 1,800 | 2,160 | 2,376 |
減価償却費 | 500 | 600 | 660 |
設備投資 | 2,500 | 1,800 | 660 |
運転資本増加額 | 200 | 120 | 0 |
純借入額 | 1,200 | 720 | 0 |
配当支払※ | 800 | 1,560 | 2,376 |
・A社の資産はすべて営業資産であり、普通株式及び有利子負債(利率5%)によって資金調達している。
・また、固定負債はすべて有利子負債であり、その簿価は時価と等しいものとする。
・なお、流動負債は無利子負債である。