前回は、フリー・キャッシュ・フロー法の考え方について解説した。今回は、企業の資本構成が大きく変化する場合や税率の変更が予想される場合に用いられる「調整現在価値法」について紹介したい。

企業価値、事業価値、株主価値とは?

評価手法の解説に入る前に、バリュエーションの用語についてまとめておきたい。実務においては「企業価値」「事業価値」「株主価値」など、一概に企業や株式の価値といっても様々な用語が使われている。

以下は「企業価値評価ガイドライン」(https://jicpa.or.jp/)より、企業価値、事業価値、株主価値についての概念図を示したものである。

企業価値の概念図
日本公認会計士協会 企業価値評価ガイドラインP.25【図表Ⅳ-1 企業価値の概念図】より
用語解説
事業価値 事業から創出される価値である。会社の静態的な価値である純資産価値だけではなく、会社の超過収益力等を示すのれんや、貸借対照表に計上されない無形資産・知的財産価値を含めた価値である。
企業価値 事業価値に加えて、事業以外の非事業資産の価値も含めた企業全体の価値である。なお、企業価値を株主価値と同義にとらえるケースも実務上ある。
株主価値 企業価値から有利子負債等の他人資本を差し引いた株主に帰属する価値である。なお、株主価値の算定に当たっては、種類株式等の取扱いや少数株主持分を減算する等の処理が必要となる。

以上、筆者作成

調整現在価値法とは?

調整現在価値法(APV;Adjusted Present Value)とは、無負債事業価値に、負債による節税効果の現在価値をプラスすることによって事業価値を計算し、これをベースに株主価値を計算する方法である。

・調整現在価値法 = 無負債事業価値 + 負債による節税効果

「無負債事業価値」とは、負債がない状態の現在価値のことである。全額自己資本によって資金調達しているものと仮定した場合の事業価値であり、営業フリー・キャッシュ・フローを無負債を仮定した場合の株主資本コストで割り引いた現在価値の合計である。

また「負債による節税効果」とは、負債による節税額の現在価値のことである。利息支払による税金の減少額であり、将来の節税効果額をそのリスクを反映する割引率で割り引いた現在価値合計のことである。

この調整現在価値法は、将来の節税効果を予測し、その価値を別途計算するために、資本構成が大きく変化する場合や税率の変更が予想される場合に柔軟に適用できるというメリットがあるといわれている。