※ 下記記事中の時価等の数値情報や話題は、元記事となるブログ記事作成当時(2015年4~5月頃)のものであり、現在直近の数値情報や話題ではございません点 ご承知おきください。
先日の記事の [相続税] 会社に財産を移して評価額を圧縮?その① の続きです。資産管理会社の実務的な利用例(と推測されるもの)を挙げて少し説明してみます。
必ずしも相続税対策とは言えませんが、上場会社の大株主には創業家による「資産管理会社」(「持ち株会社」と言う表現もあります)というものが存在することも少なくありません。(実は結構多いです。一般の方が思うより多いかもしれません。)
例えば、、、
・サントリーホールディングス株式会社の「寿不動産株式会社」 89.32%、
・大塚ホールディングス株式会社の「大塚エステート㈲」4.10%や「大塚アセット㈱」1.32%、
・株式会社大塚商会の「大塚装備株式会社」30.91%
など。(※%は持ち株割合)
有価証券報告書の「大株主」に「有限会社なんちゃら」とか「株式会社なんちゃら」と無名な企業名が記載されているようなケースはそういうことに該当するかも知れません。
事例には、最近、話題になった「大塚家具<8186>」さんを絡めてみます。(。。。すいません、他意はありません。)
上場株式の評価額の原則は「課税時期の時価」が原則です。ここで言う課税時期は、相続なら相続開始日、贈与なら贈与日、のことです。
たとえば、大塚家具さんの有価証券報告書(H27.3期)(IRはこちら)によると、大塚勝久会長は3,500千株(18.04%、2015/4/1の時価@1,560円×3,500千株=約55億円)を保有しています。
株式会社ききょう企画は1,892千株(9.75%、2015/4/1の時価@1,560円×1,892千株=約30億円)を保有しています。(参考資料はこちら)
もしも、大塚会長が、ききょう企画の分も直接保有をしていれば、同会長が所有する大塚家具の株式評価額は85億円(55+30)ですね。
ざっくりした計算をしますが、仮に相続税率50%とすれば、85億円に対する相続税は約43億円(85×50%)です。
しかし、実際には、ききょう企画(資産管理会社)が約30億円分の株式を有しています。いわゆる間接保有の状態です。
ききょう企画の貸借対照表がどんな状況かわかりませんが、仮にききょう企画におけるこの大塚家具株式の帳簿価格が1億円だと仮定しましょう(あくまでも仮定です)。ききょう企画そのものは未上場会社ですから、ききょう企画の株式は、財産評価基本通達178~193-3によって評価をします。
ご興味がある方は、こちらを是非読んでみてください。
国税庁HP 財産評価(取引相場のない株式の評価上の区分)
国税庁HP タックスアンサー 取引相場のない株式の評価
未上場株式の原則的な評価方法は、純資産価額方式です。(実際には、類似業種比準価額方式や配当還元方式などもありますが、話がどんどん複雑になるので、ここでは割愛します。)
上記の仮定に基づけば、ききょう企画の純資産価額方式による評価は次のようになります。
大塚家具株式30億円-評価差額法人税等(※)11億円=ききょう企画19億円
(※)(時価30億円-簿価1億円(仮定))×実効税率38%=評価差額法人税等11億円
この「評価差額法人税等」は、仮に、ききょう企画が所有する大塚家具株式を売却して解散したとする場合の法人税を見込控除するものです。
「評価差額法人税等」の控除が、これが間接保有の一つのポイントになります。すると、どうでしょう。仮に、もしも、大塚会長が、ききょう企画の分も直接保有をしていれば、同会長が所有する大塚家具の株式評価額は85億円でした。
しかし、上記によれば、ききょう企画の株式の評価額は19億円ですから、直接保有分55億円と合わせると74億円になります。つまり、総額で比較すると、評価額が11億円下がり、仮に相続税率50%とすれば、相続税の節税学は約5億5千万円です。
この11億円の評価減は、「評価差額法人税等」といい、仮に、ききょう企画が所有する大塚家具株式を売却した、あるいは、ききょう企画が解散したとした場合の法人税を見込控除できていることが要因です。
上記に、もう一つシミュレーションを加えると、もしも、将来、大塚家具の株価が5,000円になったらどうでしょうか?
大塚勝久会長直接所有分 @5,000円×3,500千株=約175億円
株式会社ききょう企画 @5,000円×1,892千株=約95億円
すべて直接所有とした場合の評価額270億円
しかし、ききょう企画を上記仮定で評価すると・・・
大塚家具株式95億円-評価差額法人税等(※)36億円=ききょう企画59億円
となります。(※)(時価95億円-簿価1億円(仮定))×実効税率38%=評価差額法人税等36億円
そうすると、直接保有175億円+間接保有分59億円=234億円となりますから、すべてを直接保有するより、36億円の評価額が低くなります。相続税の実効税率を50%と仮定すれば18億円の節税です。
実務上はこんなに単純ではなく、事前に、一部は、御長男や久美子社長などにききょう企画の株式は移し済みかも知れません。
「大塚久美子社長に父親のリベンジが.. 次は資産管理会社「ききょう企画」巡るバトルだ(J-Cast)」
こういった方式やテクニカルを使い、また、さらに「相続時精算課税制度」などの時代時代に合った制度を絡めて、相続税対策を行うのです。
ここでは、「純資産価額方式」だけの事例に留めました。実際には「類似業種比準価額方式」も、実務上は非常に重要な評価方法なのですが、これを書き始めるとややこしくなるので、またの機会にします。
話を戻しまして、最近は創業オーナーの世代交代により、「資産管理会社って、本当にそのままでいいのか?」という話も出ることがあります。
たとえば、きっかけの一つが、「西武鉄道株を巡る証券取引法違反事件」です。ここでは詳細をふれませんので、ご興味のある方は「西武鉄道 証券取引法違反」でググってみてください。
この事件をきっかけに「大株主の透明性」を求められるようになったのも事実です。この事件の後、合併 や株式交換 、テクニカル上場 などを使い、資産管理会社を解消している上場企業も少なからずあるはずです。
また、そもそも、”代替わり”が進むにつれて、大株主の子供や孫たちのつながりが薄くなった際に、「未上場株式を持っていても仕方がない。」「相続税を払いたいので現金に換えてくれ」などの意見が出るケースも起きています。
しかし、実際に、資産管理会社の所有する株式を売却し、残余財産を分配すると、上記で述べた「評価差額に対する法人税等」が本当に実現してしまったり、みなし配当が生じたり、で、一筋縄には行きません。
ですから、いったん作った「資産管理会社」を解消する際には長期的な視野にたったスキーム立案が必要になります。
行き過ぎた相続税対策や評価額圧縮に警鐘を鳴らすのは、「旧トステム創業者の長女、百数十億円申告漏れ 国税庁指摘 (日経新聞)」などの節税スキームです。今後も、行き過ぎた節税策については国税は注目するでしょう。
例えば、イオン㈱の大株主のうち、公益財団法人イオン環境財団 2.54%、公益財団法人岡田文化財団 2.43%や、セコム㈱における公益財団法人セコム科学技術振興財団1.72%など、多少は相続税対策の意味合いもある可能性もあるかな、なんて個人的には思います。
数%でも、金額が大きいですからね。このように、オーナー系上場企業には、大株主の上位に公益法人が名を連ねるケースもあります。(これについても書き始めるとボリュームが出てしまいますので、この辺で止めておきます)
本来なら、まだまだお伝えしなければならないことはたくさんあるのですが、この辺で・・・・。
次回は、ご質問の「もちろん金額により変わってくると思いますが普通に親から子へ贈与税を支払うより得なのでしょうか?」の部分について、私なりの私見を書きたいと思います。
[著]節税ヒントがあるかもブログ メタボ税理士さん
[編集]M&A Online編集部
本記事は「節税ヒントがあるかもブログ」に掲載された記事を再編集しております。
原文を読みたい方は、こちらからどうぞ
政府は平成29年度税制改正で、大企業並みに所得のある中小企業は、租税特別措置法(租特)に基づく中小企業向け優遇税制の対象から除外する方針だ。
前回は適格か非適格再編かの大枠を確認しました。今回のケースでは適格合併に該当となりましたが、さらに欠損金・含み損の引継ぎに使用期限があるかないかをみていきましょう。