会社都合で「出向」「転籍」 税務の取り扱いで損金不算入も
最近では、大企業のみならず中小企業でも、「出向」「転籍」が増えているようだ。転籍に係る税務上の取扱いは、国税庁の通達で規定されている。税務処理の注意点に迫った。
上場会社を非公開化するM&A取引では、通常、TOB(株式公開買付け)により株式の大半を取得し、その後、100%化のため、株式売渡請求、株式併合、全部取得条項付種類株式の取得等によりTOBに応募しなかった少数株主に株式と引換えに金銭を交付します(いわゆるスクイーズアウト)。このスクイーズアウトに関し、本年3月に成立予定の平成29年度税制改正では以下の3点の重要な改正が予定されています。
(1)従来のスクイーズアウト手法について適格要件の判定が必要に
これまでは、株式売渡請求、株式併合、全部取得条項付種類株式の取得を用いたスクイーズアウトによって対象会社(上場会社)に課税を生じることはありませんでした。しかし、今回の改正により、それらのスクイーズアウト手法が組織再編税制の一環と位置付けられ、新たに定められる適格要件を充足しなければ対象会社に時価評価課税が生じることとなります。適格要件としては、①対価交付要件、②支配関係要件、③従業員引継要件、④事業継続要件の4つをすべて満たす必要があります(もっとも、多くのケースではこれらの要件を満たすことが可能と考えられます。)。
(2)合併・株式交換を用いたスクイーズアウトが可能に
これまでは合併対価として金銭を交付すると税務上合併が非適格となるため、実務上、合併はスクイーズアウトの手法としてあまり用いられていませんでした。しかし、今回の改正により、合併法人(買収者)が被合併法人(対象会社)の発行済株式の3分の2以上を有する場合、少数株主に合併対価として金銭を交付しても適格性が否定されないこととなります(株式交換についても同様の改正が行われます。)。これにより、合併·株式交換をスクイーズアウトの手法として用いることが実務的に可能となります。
(3)連結納税を実施している企業がスクイーズアウトを行うことが容易に
これまでは連結納税を実施する企業がスクイーズアウトにより対象会社を100%子会社化した場合、原則として対象会社に時価評価課税が生じるとされ、また、対象会社が有していた税務上の繰越欠損金を連結納税に持ち込むこともできませんでした。しかし、今回の改正により、上記(1)の適格要件を満たしたスクイーズアウトにより100%化された対象会社については、時価評価課税は生じないこととされ、また、繰越欠損金についても連結納税への持込みが可能となります(連結納税開始時についても同種の措置が講じられます。)。
これらの改正は、いずれも2017年10月1日以降に効力を生じるスクイーズアウトに適用されることが予定されています。
今回の税制改正により、各手法間の税務上の取扱いの差異は以前よりも小さくなります。今後ストラクチャーを検討するにあたっては、法務上の取扱いの差異がより重要となる可能性があると思われます(例えば、スクイーズアウトの実行に必要な買収者の議決権割合、対象会社・買収者における株主総会特別決議の要否等)。
弁護士 大石 篤史
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弁護士 栗原宏幸
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文:森・濱田松本法律事務所Client Alert 2017年3月号Vol.39より転載
関連リンク 【M&Aと税務】平成29年度税制改正の大綱
最近では、大企業のみならず中小企業でも、「出向」「転籍」が増えているようだ。転籍に係る税務上の取扱いは、国税庁の通達で規定されている。税務処理の注意点に迫った。