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【M&Aと税務】M&A実務における株式譲渡代金と退職金の関係は

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M&A実務における株式譲渡代金と退職金の関係

 M&Aによってオーナー経営者が会社を売る場合に最もよく使われる手法が、株式譲渡です。オーナーは個人で会社の株式を売ると、その対価としてキャッシュを手にすることになります。ただし、オーナーがキャッシュを受け取る機会はそれだけではありません。オーナーの退任に伴う役員退職金の支払いがそれにあたります。

本稿では、退職金の取り扱いをみたうえで、M&A実務での株式譲渡代金と退職金の関係についてお伝えします。

退職金を受け取る場合の税務

 退職金は、長年の勤務の対価として受け取るもので、老後の生活保障の観点から、他の所得よりも税率が優遇されています。これは、使用人でも役員でも同じです。

個人において退職金を受け取った場合の税金計算の算式は、次のとおりです。

●退職金を受け取った場合の計算式(受け取り側)

(※1)退職所得控除額は勤続年数によって変動し、
    ・勤続年数20年以内の場合には40万円×勤続年数
    ・勤続年数20年以上の場合には(勤続年数-20年)×70万円+800万円
(※2)勤続年数5年以内の場合には1/2の適用は無い。
(※3)所得税率は以下の通り。別途住民税が生じる。

A 課税退職所得金額 B 税率 C 控除額
1,000円から1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円から3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

※復興特別所得税の計算が必要

退職金を支給するときの税務

 一方、会社側では、適正な金額の役員退職金であれば、損金として算入することができます。会社に役員退職金規程がある場合は、それに基づき退職金の金額を算定します。規定がない場合の計算方法の一例を挙げると次のとおりです。

●適正支給額の計算

 過大な退職金とされないためには、功績倍率をどのくらいにするかが問題となります。功績倍率は2~3倍とされるのが一般的ですが、税法上で適正な倍率が必ずしも明確に定められているわけではありません。退職の事情、会社と同種の事業を営む会社でその事業規模が類似する会社の役員に対する退職金の支給の状況等に照らして相当額はいくらなのかを検討することが肝要です。

 損金算入の時期は、原則として株主総会の決議等で退職金の金額が確定した日の属する事業年度です。ただし、退職金の支払事業年度に経費計上(損金経理)した場合は、例外としてこれを認めるとされています。

退職金の支給-3つの注意点

1.分掌変更等の場合の退職金

 社長から会長や相談役となり(分掌変更)、退職金を支給したのはいいけれど、引退後も実質的に経営に関与しているような場合は、課税当局から退職金として認めてもらえないケースがあります。

このように分掌変更等をした場合に、退職金として認められるには、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである必要があります。

 (1)常勤役員が非常勤役員になったこと。
 (2)取締役が監査役になったこと。
 (3)分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。

2.退職金支給時の源泉徴収

 退職金を支給する場合は、源泉徴収が必要です。会社で「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けない場合は、20.42%という高い税率により源泉徴収する必要がありますので、必ず提出を受けるようにしましょう。

また、複数の会社から退職金を受けている場合には、源泉徴収額の調整計算が必要となりますので注意が必要です。

3.退職金の分割支給

 退職金を一括ではなく分割で支給する場合の注意点としては、総額と支給時期を議事録等で確定していることが重要です。なぜなら支給時期が不明確で、支払金額がその都度異なる場合は、課税当局から利益調整とみられ損金不算入とされる可能性があるためです。

そして、その場合は、個人において給与所得や一時所得等に該当するとされる可能性があります。一括支給が難しい場合、最長でも約3年をめどに、定額かつ支給時期を確定したうえで支給することが望まれます。

M&A実務:オーナーへの退職金支給と株式譲渡代金の関係

 経営者兼株主であるオーナーがM&Aで第三者に会社を売る場合、役員としてその会社を退職するのが一般的です。その場合は、退職前にオーナーの貢献度に応じた役員退職金を支払います。

 役員退職金の支払いは、会社からのキャッシュアウトとなりますので、株式価値の減少となります。したがって、M&A実務では、退職金支給後の残金を株式譲渡の対価として支払うことが一般的です。

株式譲渡前に譲渡会社からオーナーに対して、役員退職金を支給するケース

 株式譲渡については、株式の取得原価と譲渡対価との差額(譲渡益)に対して個人では約20%の税率で課税されます。株式譲渡課税よりも退職金に対する税金は、先に述べたとおり、基本的に実質的な税率が低くなり、譲渡側であるオーナーの手取額を増加させることになります。

 退職金は会社側でも過大な退職金とされない限りは税務上の損金となるので、法人税も減少します。ひるがえって、会社の譲受人側では、退職金支給により譲渡対象企業の資金を活用することができると考えると、資金負担を少なくできます。

 なお、法人で保有する株式を譲渡する場合は、個人での譲渡と異なり、約30%の税率での課税であり、かつ、譲渡代金は法人に入る点に注意する必要があります。さらには、株主が複数存在する場合には、株式譲渡対価の支払いとは別で退職金を支払うことになるため、代表取締役への対価支払の配分を多くするための調整弁としても利用できます。

 以上のとおり、M&Aの株式譲渡の価格決定にあたっては、退職金の支払いについても併せて考慮することをおすすめします。そうすることで、売り手と買い手双方にとって納得のいく価格合意に至りやすくなるといえるでしょう。

文:Naoko Yamamoto(税理士・中小企業診断士)/編集:M&A Online編集部

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