【M&Aインサイト】スピンオフ税制の新設、これによる企業再編・M&Aの新局面
本年3月末に国会で成立した平成29年度税制改正は、M&Aに関する重要な税制改正を多く含んでいますが、今回取り上げる「スピンオフ税制」の新設もその1つです。
2017年3月23日、組織再編に係る行為計算否認規定(法人税法132条の2)に基づく否認事例に関する裁決例(裁決日2016年7月7日)の裁決要旨が公表されました。
同事案は、審査請求人(X社)の旧子会社の事業をX社の新子会社に承継させた上で、同日付でX社と旧子会社が合併することにより、旧子会社の未処理欠損金額に相当する金額をX社の損金の額に算入したというものです。国税不服審判所は、当該事案について、①合併の効力発生日と同日付で、旧子会社事業が新子会社に引き継がれた等からすれば、合併を含む一連の行為は、旧子会社事業をX社に取り込むことなく新子会社に移転させることを計画したものであり、通常想定される合併の実質が備わっておらず、実体とは乖離した形式を作出する不自然なものであり、②合併の事業目的は債務超過に陥ることが想定されていた旧子会社の救済とその事業の損益改善にあるとされていたものの、旧子会社事業の損益改善は、合併ではなく、販売単価の変更によって達成する方針となったことからすれば、合併には、税負担の減少以外にその合理的な理由といえる事業目的その他の事業があったとはいえないと指摘しました。その上で、合併を含む一連の行為は、繰越欠損金に係る規定の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でその適用を受けるものであって、当該規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるのであるから、組織再編税制に係る行使計算否認規定における「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当すると判断しました。
組織再編に係る行為計算否認規定については、最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁において一般的な判断枠組みが示されましたが、上記の裁決例は、同最高裁判例の判断枠組みを踏襲したものと考えられます。組織再編を行うにあたっては、同最高裁判例の判断枠組みを踏まえたプランニングや、事業目的の証拠化を行うことが欠かせませんが、上記の裁決例は、現時点では数少ない否認事例の一つであり、プランニングや証拠化のあり方を考える上で重要な先例価値を有するといえます。
弁護士 大石 篤史
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弁護士 山川 佳子
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