欧米製薬会社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの量産開始で「お役御免」と思われていた国産ワクチン開発が、再び注目されている。理由は新型コロナウイルス変異株の流行拡大だ。しかし、先行きは決して楽観できない。国産ワクチンを実用化するためにクリアすべき課題とは何か?
2021年5月9日に横浜市で開かれた日本感染症学会学術講演会で、製薬大手の塩野義製薬<4507>と製薬ベンチャーのアンジェス<4563>が変異株向けのワクチン開発に乗り出したことを明らかにした。南アフリカ株やインド株などの変異株では、先行投入されたワクチンの効果が低下する危険性も指摘されている。
すでに複数の変異株を派生している新型コロナウイルスだけに、抗原連続変異を起こして生き残り、季節性インフルエンザのように流行を繰り返す可能性もある。これに対抗するには毎年コロナワクチンを接種しなくてはならず、その安定供給のためには国産化は欠かせない。
だが、国産ワクチンの実用化には大きな課題が立ちふさがっている。国による承認だ。塩野義製薬が2020年12月に国内で臨床試験を始めた新型コロナワクチンは、厚生労働省による承認が得られれば2021年中に1000万人分以上を量産できるという。
だが、その承認の「壁」が厚い。日本で5月17日現在、承認を受けている新型コロナワクチンは米ファイザー製のみ。すでに海外で本格的な接種が始まっているにもかかわらず、米モデルナ製と英アストラゼネカ製のワクチンは20日に開く薬事・食品衛生審議会の部会で承認される見通しだ。
日本政府はモデルナと2500万人分のワクチンを契約済みで、すでに輸入も始まっている。アストラゼネカとは6000万人分を契約しており、輸入に加えて日本企業に生産委託した原液を使い、国内で製剤する。いずれも調達は進んでいるのに、承認待ちで医療機関に供給できない状況だ。