M&Aの研究者で、銀行で実際のM&Aにかかわった経験をお持ちの早稲大学大学院経営管理研究科の鈴木一功教授に学生レポーターであるMAOガールの山口萌さんがお話をおうかがいしました。早稲田大学に在学中の山口さんは通い慣れたキャンパスでの取材に、リラックスした様子もうかがえましたが、やっぱり当日はヒヤヒヤだったよう。ちょっと難しいところもありましたが、「M&Aには情が大切」「M&Aは知識と知識のぶつかり合い」などいろいろな面白い話をお聞きすることができました。

生保などの機関投資家の変化を研究

-現在どのような研究に取り組まれておられるのですか。

最近、取り組んでいるのはコーポレートガバナンスに関する研究。日本の年金機構や投資信託会社、生命保険会社などの機関投資家のガバナンスがどのように変わってきたかを調べている。これら機関投資家がどのように投資先企業と対応していこうとしているのかに興味がある。

例えば生命保険会社であれば、これまでは投資先企業の経営には口出しはしなかった。ところが最近は投資先企業の経営をしっかりと検討する部署を設けたり、経営者と定期的にミーティングをする企業が増えてきた。こうした変化を研究している。

-機関投資家は、なぜそのように変化しているのですか。

従来は国債などを買っていれば何とかなっていたが、これだけ低金利になると必要な運用利回りが確保できなくなってきた。このため株を買わざるを得ないわけだが、そうなると経営者には、しっかりと経営をして株価を上げてもらわないと投資したお金が増えないということになる。そこで、経営に口を出すようになってきたという流れがある。

少し前に4、5年間の比較的短期で収益を求めようとする投資家が現れた。彼らは投資先企業内にある余ったお金を吸い上げて早々にいなくなるということを繰り返した。彼らが投資した企業のその後の業績を研究したが良くなっていなかった。彼らは会社を良くすることには貢献していなかった。これは日本企業、日本経済にとって不幸なことだ。 

これではだめなんじゃないかな、というのがこのテーマに取り組みだした背景にある。こうした短期の投資家に代われるのは、どういう人たちなのかを考えた場合、株を長く持たざるを得ない生保や年金などが、経営者と対話しプレッシャーを与えながら、会社をよくしていかないといけない、のではないかという考えに至った。 

-著書に企業価値評価に関するものがあります。

企業価値評価はもともと銀行のM&A部署でやっていたことで、それを今こちらで教えている。極めて実務に近いことを教えている。企業でM&Aの部門に入ると最初に練習で企業価値評価をやらされる。上場企業のデータを渡され、企業価値評価のモデル作りをするのだが、これと同じことを授業でやっている。企業価値評価は企業の業績予測が重要であり、今後どのように伸びるのかをみなければならない。単に数字を作るだけではだめで、企業を理解しなければならない。授業ではM&Aの担当者として、現場で企業価値評価をやれと言われれば、すぐにできるようなレベルにまで高めたい。DCF(ディスカウンティッド キャッシュ フロー)ができるようにすることを目標にやっている。書籍についてはもう少し分りやすくしたものを発行することにしている。近いうちにでき上がるだろう。

海外投資家にもう少しオープンに

-発行されたらぜひ読んでみたいです。ところで、そうした研究や授業の内容を踏まえ、現在の日本のM&Aの状況をどのように見ておられますか。

日本のM&Aで現在取引が盛んな分野は二つある。事業承継と海外企業の買収で、事業承継は件数が多くてニーズがある。もう一つの海外企業の買収はニーズはあるのだが、非常にハードルが高くなかなかうまくいっていない。 

事業承継といえば中小企業のマッチングが中心になる。中小企業は企業価値評価といった理屈ではなく、どれだけオーナー経営者の話を聞いてあげて、悩みも聞いてあげて、それを分かってくれる相手を探してくるかということが重要になる。「理屈」よりも「情」の世界だ。これは売る方も買う方も同じ。経営者が一生かけてやってきた事業をちゃんと尊重してほしいという思いを理解できる「情」がないとうまくいかない。

海外企業の買収については、なぜこんな高い値段で買ったのだろうと思うケースが多くある。また、とんでもない問題を抱えていることを見抜けず、買収後にそれが発覚して大騒ぎになることもある。それは買収前の情報や調査が足りないためと、ネゴシエーションがうまくいっていないためだと思われる。

日本人は交渉においてテーブルをたたいて席を立つようなことは得意ではない。いいように相手のペースに乗せられ、とんでもない高い値段で買わされているケースも少なくないのではないかと思う。もちろん、相手企業を買いたいから交渉に臨んでいるのではあるが、時には撤退するというオプションも設けておかないといけない。「買うしかない」となれば相手は足元をみて、いくらでも値段を釣り上げてくる。

海外企業によるM&Aの案件で言えば、海外の企業が日本の企業を買えないところに問題がある。海外企業が日本企業を買収するのに、これといった障壁はないのだが、日本企業が乗っ取られるのではないかと警戒して話が進まないことが原因となっているようだ。100%海外投資家ウエルカムということではないが、もう少しオープンでもいいのではないかと思っている。