非上場会社同士のM&Aの場合、情報開示に対するアレルギーが特に強く、成約案件がオープンにされるケースはまれなのかもしれない。今年お手伝いした事例について、自己の振り返りも含めて数件取り上げてみたいと思う。

ケース1:かつて人気のそば店…今は実質休業中

K社は、地元で“ボリューム満点”と人気で、テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」でも取り上げられたそば店。経営者の妻が病死して以降実質休業中であった。借入金もあり、弁護士からは破産を勧められていた。

借入れ返済のために個人資産も売却して廃業しようと覚悟を固め、借入先の金融機関に相談したところ、「この財務状況であれば誰かが譲り受けてくれるのではないか」とのことから、案件の紹介にいたった。

まずは、決算書の洗い出しとともに譲渡候補先を募集。募集した中の1社で、同市内でラーメン店を複数経営するN社への事業譲渡が決定。N社は自社ブランドに加え、FC(フランチャイズ)店を数店展開している。現在、K社は新経営者の下で営業を再開し、賑わいを取り戻している。

【ケース1のディールポイント】

簡易デューデリの結果、会社所有の店舗と個人所有の土地を売却すれば、借入金の返済が可能と判断し、売却先を募った。結果、4社の買受候補先が見つかり、価格の最も高い先に売却決定した。

ケース2:15年前に開業した温泉宿、経営者が高齢化

F社は新規事業として約15年前に温泉宿泊業を開業。その後、会社から切り離し、F社社長の母の個人事業としていた。観光地の魅力もあって順調に発展してきが、日帰り温泉などの増加による競合もあってここ数年、客足は減少傾向にあった。加えて経営にあたっていた両親が高齢で経営体制の維持が難しくなったため、同業のプロに事業譲渡したいとの相談となった。

業種的に、私のネットワークでは相手探しが極めて困難であるとの判断から、宿泊業に強いアドバイザーにつないだ。その直後、リゾート、宿泊・日帰り温泉などの管理受託業を営んでいるS社から事業拡大の相談があり、F社を紹介。

温泉建物設備は現行の賃料水準での賃貸が条件だったが、S社の初期投資を抑えたいニーズに合致したため、比較的短期間で基本合意にいたった。その後、不動産、温泉権などの賃貸借契約等を締結し、当初相談から7カ月での事業譲渡となった。従業員は全員引き継がれ、売上は順調に推移している。

【ケース2のディールポイント】

業種が得意な専門家へ躊躇することなくつないだこと。アドバイザー間での日頃のコミュニケーションが功を奏した。もちろん、ブローカー料(紹介料)は少し頂きました。

ケース3:家族経営の飲食店、廃業予定だったが…

M社は家族経営の飲食店。社長の手作り料理が地元で人気を博していたが、社長の病により事業継続が困難となった。後継者候補もいないため当初は廃業を主とした相談だったが、廃業後の生活設計を検討した結果、借入金の返済含め一定の収入が必要と判断。第三者への事業譲渡を行った上で店舗をテナントとして貸す方針とした。

途中、事業譲渡の交渉中に先方都合で破談になるなどアクシデントが発生したが、最終的にはメニュー、家族の雇用含めて継続することを条件に、事業拡大を検討していたP社との契約にいたった。

【ケース3のディールポイント】

体調不良により物事に対して悲観的になりやすく、小さなことでも悩んでいる状況で対応する中で留意したことは、どんな話、質問をされても「大丈夫です、その時はこのようにすればいいですよ」という答え方を継続したこと。

何度か面談を繰り返すうち、気持ちも落ち着き信頼関係を築くことができた。このことがその後、破談というアクシデントも乗り越えて新たな事業者と契約締結できた要因にもなったと思われる。

ケース4:優良企業ながら、後継者不在が悩み

S社立体駐車場の建設工事やメンテナンス業務を展開。業歴29年、オンリーワン企業として安定した業績と無借金経営を続けていた。事業承継については、親族には事業承継しないという創業者2名の方針から、従業員承継を検討していたが的確な承継者がいないことから後継者不在の悩みを抱えていた。

地元で開催された「事業承継セミナー」に参加、その後の複数回の個別相談を経てM&Aを決断。同県内企業数社とのマッチングを進めたが、最終的にシナジー効果が高いN社への事業引き継ぎを決め、株式譲渡契約を締結した。N社は県内大手のビルメンテナンス業。管理物件の多くは駐車場とのリンクしており、クロスセルの相乗効果が見込める。

【ケース4のディールポイント】

事業承継セミナーによる動機づけと、その後の定期的なフォロー。

文:Antribe社長・小林伸行(M&Aアドバイザー