中小企業のM&Aを語る時に大切なこととして、①廃業の防止 ②雇用の継続 ③技術やノウハウの継承などが挙げられる。果たして、そうなのだろうか?

譲渡案件の多くはリスケ状態にある

中小企業の事業承継の現場に携わる立場からすると、実態としては、リスケ(融資返済の延期)の状態から脱することができず、いまだに金融機関からの負債が多く、当人は商売に明るい未来を見いだせないまま譲渡の相談を行い、最終的にはM&Aに至らない譲渡案件が多いと思う。

M&Aの案件に携わろうとすれば、弁護士や税理士、司法書士などの専門家の知恵や力量が求められる。ところが、税理士は日頃のルーティン業務に忙しく、かつ取引先のM&A(譲渡側の場合)は自社の顧客喪失につながるため、積極的な関与を手控える傾向が見られる。また、毎年変わる税制改正のうち、納税猶予などを勉強しても苦労の割に実入りが少ないという事情がある。

そうした中、事業承継の公的なサポート窓口として「認定支援機関」(事業引継ぎ支援センター)が存在する。ただ、国の事業ということもあり、どこの誰に何を相談すればよいのか、一般には分かりづらい制度であることが否めない。

M&Aのマジョリティー化には買い手の意識変化が必要

近年、M&Aという言葉がメジャーになってきた。10数年前、私が「M&Aのアドバイザーです。何か御用がありましたら」と企業訪問して、塩をまかれていた時代とは確実に違う。とはいえ、M&Aによる事業買収を経験したことのある企業はまだまだ少ない。M&Aのマジョリティー化、あるいはM&A市場の流動性を高めるためには買い手の意識、認識を変えてもらう必要があると思う。

中小企業の場合、買い手の大半は何か自社にとって都合の良い企業(儲かっていて、かつ後継者が不在など)がないか、といったスタンスで買収先を探している。なぜそのような思考回路でM&Aを模索するのかというと、新聞や雑誌で最も多く目にするのが上場企業や大手非上場企業のM&A記事だからであろうと推測する。

マスコミ側には取り上げたい、あるいは取り上げやすい記事というものがあるに違いないが、読者側はどうしても記事を額面通り受け取ってしまいがち。「あわよくば当社も…」という誤った期待や妄想を膨らませているのではないかと推測する。私自身、中小企業のM&Aの現場にいる者の一人として大きな違和感がある。「M&Aを行っても、そんなに大変ならやめておこう」というのも一つの経営判断として正しいと思う。