M&Aの成立には様々な関門が待ち受けている。今回は、ディールの終盤でよく直面する「価格」と「情報漏洩」にスポットをあてる。

「挨拶」がわりの価格提示後に本当の交渉

①実際の価格交渉の進め方

アドバイザーの仕事として売却価格交渉は重要なポイントの一つ。価格交渉のポイントは、売手であれば買手の上限価格、買手であれば売手の下限価格をどう見極めるか。また、買手が同業者で企業買収の経験者なら入口の交渉を間違わないことが大切になってくる。

「A社は時価純資産価格で13億円ですが、交渉をギリギリでやるのはA社オーナー(売手側)としては望んでいません。そこで、最初からディスカウントして10億円でお願いします」

これが、セオリー通りの上限価格の提示方法となる。その時、相手方は「わかりました。早速検討させていただきます」と言うに相違ない。その後どうなるか。

1週間後、B社(買手側)のアドバイザーから提示があった。「それでは、7.8億円でお願いします」。

こちらが最初からディスカウントして10億円といっているのに相手は平気な顔をして7.8億円と言ってくる。でも、これはご挨拶みたいなもの。本当のタフな交渉はここから始まる。

全身の神経を研ぎ澄まして交渉に臨み、先方の上限価格を見極める必要がある。仮に本件の上限が9億円という仮説を立てたなら、次のカウンターオファーはそれを少し上回る9.5億円に設定する。先方の上限価格が9億円であれば、それを下回る価格で再び提示があるはずだからだ。

そして、最終的に「それでは我々も譲歩しましょう。9億円でお願いします」となれば、万々歳。というのも、先方の上限価格を引き出せたのだから。

今回は説明を割愛するが、上限と同じく下限も設定する(交渉レンジの設定)ことが交渉前からできていれば売却側オーナーの満足も得られやすいのではないかと思われる。

従業員に知られないように細心の注意を

②社内における情報流出防止について

売手はM&A会社や買手候補などの外部とはNDA秘密保持契約書)を締結して情報が流出しないよう細心の注意を払わなければならない。しかし、意外と社内の情報管理が甘いケースが散見される。売手としてはとくに従業員に知られないよう細心の注意を払う必要がある。

買手との交渉場所についても売手企業内でやることは避けなければならない。買手企業や仲介機関の会議室が王道。私個人的には、ホテルのロビー横にあるレストランや喫茶コーナーをお勧めしたい。

それでも不思議なことに、いくら情報管理に細心の注意を払っていても「会社が売りに出されている」という噂が従業員や取引先からもたらされることがある。もし、従業員に「社長、こんな噂があるのですが本当ですか?」と聞かれたら。きっぱりと笑いながら答えてもらいたい。

「そんなことあるわけがない」。案件を成約させ、従業員や取引先の未来のためにM&Aを行っているのだという信念を持って堂々とウソをついていただきたい、と経営者の背中を押してあげるのもアドバイザーの大切な仕事の一つ。