事業承継では、1.「人の承継(経営権、後継者の選定など)」、2.「物的資産の承継(株式の移転、設備や不動産、資金、許認可など)」、3.「知的資産の承継(経営理念、営業・技術ノウハウ、取引先との信頼関係、顧客情報など)」の3つの要素を受け継ぐことになります。どれも大事な要素ですが、中でも、「知的資産の承継」は特に大事です。なぜなら、知的資産は「見えない資産」であり、後継者が経営者から経営理念やノウハウを受け継いで、それを身体の芯から理解するには、長い時間がかかるからです。

今回は、知的資産の承継を早く始めることが重要である理由について、実際に後継者から伺った話を交えてお伝えします。

1.聞きたい時に聞けた後継者と聞けなかった後継者

株式の移転、相続税・贈与税の対策、代表交代の事務手続きは、最悪、経営者が亡くなった後でも専門家の手によって可能です。

一方、経営者が創業した時の思いや経営理念に込められた本当の意味、どのような苦労を乗り越えて長年経営を行ってきたのかについては、経営者が元気なうちでないと直接聞くことができません。

以下は、私が事業承継支援や後継者塾のサポートを行う際に、後継者の方から聞いた話です。

後継者Aさん
「自分は社長に就任しているが、会長である父は認知症を発症している。父に創業したきっかけや経営理念をつくった時の話を聞きたかったのに、既に会話ができる状態ではない。もっと早くに、父と会社の話をしておけばよかった。」

後継者Bさん
「父が経営する会社を受け継いで兄が社長に就任したが、その兄が病に倒れて急死した。何人かの従業員がいる中、泣いていてはいられない。今度は弟である私が社長になって、後継者塾で経営知識を学び、会社を続けていきます。」

後継者Cさん
「父が会社の社長で、後継者の私は専務を務めている。しかし父が病に倒れて社長業ができなくなり、現在は私が社長の代わりを務めている。祖父である会長が健在なので、祖父が元気なうちに社長として必要なノウハウを吸収したい。」

後継者Dさん
「経営者である父と後継者である私が一緒になって、将来の事業計画書を作ることができて良かった。父が元気なうちに、会社の経営について話し合うことができるのは、本当にありがたいことです。」

2.早くから事業承継の準備を始めた女性後継者Eさん

近年、女性の経営者は増加傾向にあります。帝国データバンクの調査によると、2018年4月末時点で企業における女性社長率は7.8%。1988年の4.2%と比べると、30年で3.6%増加しています。

私が係わっている後継者塾の修了生で、父の会社で営業を行いながら、次世代の経営者になるための準備をしている女性・後継者Eさんがいます。彼女も後継者塾で会社の理念や経営理念の宿題があった際、経営者である父から話を聞くことができた人です。

父親である経営者は50代半ば。Eさんが社長に就任するのは、10年ぐらい先の予定です。結婚を機に、今後の出産や育児に入る可能性を考えて、今のうちに後継者塾で経営知識を学び、同世代の仲間づくりを始めました。

Eさんは、後継者塾で出会った仲間から刺激を受け、社内報の制作を始めて本社・工場間のコミュニケーション活性化を図っています。また、将来の自分の右腕・左腕をつくれるように、これから管理職研修に力を入れようとしています。