中小企業のM&Aの現場でよく経験することで、スポーツに例えられる話があるので紹介したい。野球でもサッカーでもいいのだが、個人的には相撲が例えとして一番わかりやすい気がする。

トップ面談まで進むのは20~30%

M&Aという言葉が中小企業にも浸透してきており、かつ譲受(買手)希望で相談に来る企業数はかなり多い。その中で、実際にトップ面談にいたる企業はどれくらいだろうか。

私の経験則ではせいぜい20~30%。その前段階であるノンネームシート(譲渡検討先の企業概要書)の閲覧率は90%ほど。ということは、大半の企業は「興味はあるが、実際にM&Aをするつもりがない」「M&Aをする準備が不足している」といったことが予想される。

準備とは何か。相撲の話に戻す。大半の人は相撲を観戦する側である。もし、「土俵に上がってみたいですか」と問われれば、大半の人が「YES」と答えるだろう。

しかしそれは、土俵に上がって勝負がしたいわけではない。土俵から見える景色を堪能したいとか、土俵に上がったらどんな雰囲気、気分なのか味わってみたい、といった意味にほかならない。力士がどんな思いで勝負をしているのか、勝負のためにどれだけの鍛錬や稽古をしてきたのか、ということにまで思いを致しているわけではあるまい。

無意識のうちにM&Aに参加表明?

買手企業も、世間や取引先との話題の中から「M&A」という言葉を耳にする機会が増えているから自分も関与してみたい、と無意識のうちにM&Aの世界に参加表明をしているのかもしれない。

M&Aを成功させるためにはKPI(重要業績評価指標)が大切であることを、中小企業の買手企業の経営者は意外に認識していないのだと思われる。中小企業M&Aの現場で私がこれを最も強く認識する場面として一例を挙げたい。

まず、買手企業はHPを検索したり、知り合いの経営者から紹介されたりしてM&A仲介会社やM&AアドバイザーNDA(秘密保持契約)を結び、買手登録を行う。その後、大まかな買収希望を伝え、ノンネームシートを閲覧する。そして、対象企業の具体的な内容をあれこれと突っ込んで質問を投げかけてくる。こちらとしては双方のNDA締結前であり、どこの、何という企業かは絶対にわからないように(ごまかしながら?)説明する。   

事前にNDAの意義を説明したにもかかわらず、どこの誰だか知りたいだけのような質問に固執する経営者には「この人は、M&Aは難しいな」という判断にならざるを得ない。土俵に上がる資格がない。