最近の事業承継は、後継者不在などを反映して、親族内・企業内承継中心からM&Aを通じた第三者承継が広がりつつある。売り手が、買い手に対していかに良い買収条件を提示できるかがM&A成功の決め手となるが、その際、重要になるのは「磨き上げ」の作業である。

組織・事業の不備を是正し「強み」を明確にする

「磨き上げ」とは、会社の現状をさまざまな観点から調査・把握したうえで、組織・事業などに関わる不備を是正し、会社の強みを明確にすることにより、会社をより良い状態に仕上げることを指す。この「磨き上げ」こそがM&Aの成否を決定づけるといっても過言ではない。

しかしながら、将来、漠然とM&Aによる事業承継を考えている経営者は、「磨き上げ」と言われても一体何から始めたら良いのだろうか?

様々な考え方もあるが、いきなり大きなことを始めるより、まずは身近な社長や管理職の事務効率化に取り掛かることを提言したい。

社長や管理職と言っても、業種によってその業務の内容はかなり変わってくる。ここでは、主に製造業を例に考えてみたい。

製造業の社長や管理職が抱える「事務作業」では、「翌日の生産計画の確定」「朝礼の準備」「日報集計」「改善活動の記録や報告書作成」「データ収集」「工程会議」「安全に関する報告書作成」「5S活動」などなど多岐にわたる。

役員が多ければ分担も可能であるが、多くの中小企業の場合、2~3人の役員で進めたり、場合によっては社長のみでほとんど行っている企業も多い。会社の事務改善を図るうえで、まず上記のような社長や管理職の事務改善から始めるべきである。

それぞれの事務作業が「昔からこの方法で行われているから」という理由で効率化をしていないのではないか?

「本来の生産活動が忙しいから、事務作業の改善まで手が回らない」という声をよく聞くが、「事務作業の効率化を図ることで、生産活動に専念できるようにしたい」というように経営層はまず意識転換する必要がある。

業務の棚卸を「ECRS」視点で進めてみる

では、どのように改善を進めていくべきなのか。これは改善の基本として「QCストーリー」に沿って考えることが有用である。進め方として、①ルーティン化した事務作業(報告書作成等)の抽出 ②1作業単位ごとの時間(実績時間)の把握 ③1作業の月間頻度を確定 ④「実績時間×頻度=1カ月間の仕事量」の把握ーの順で現状の定量化を図る。

これを「業務の棚卸」と呼び、「ECRS」の改善視点でまず大まかに検討をしていくことが望ましいとされる。

「ECRS」とは、エリミネイト(E)=「なくすことができないか」、コンバイン(C)=「一緒にできないか」、リアレンジ(R)=「順序を変更できないか」、シンプリファイ(S)=「単純化できないか」という改善視点であり、この観点で思い切って検討していくことが必要である。

様々な企業を訪問する中で、よく事務の責任者から、昔からやっている事務作業に対して「目的がよくわからないものが多い」という声をよく聞く。このような声は、社長に届いているのだろうか、としばしば感じる。

社長・管理職は「改善の本質」から目をそむけるな

経営層は、前述のような改善視点で考えることは大事であるが、改善の本質として、行っている業務について、①会社の目的に一致しているか ②報告書などの作成物は作成後に誰がどのように活用しているのか ③単純作業に対して従業員はどう感じているか、などの「本質的な検討」も必要である。

業務改善にITやAI(人工知能)活用などのデジタル化対応も非常に大事であるが、前述のような本質的な検討がないと、将来の企業の方向性や企業価値も変わってしまうものである。

社長や管理職は、現状の業務を俯瞰し、ゼロベースで見直し、自ら率先して会社の目的に合った事務改善を行い、従業員に広げていく責務があると思っている。

文:認定事業再生士(CTP)菅井啓勝