前回は、M&Aには売手、買手の様々な事情や思惑が絡むケースが多いという話をした。そこ今回はディールの現場でよく直面するM&A「あるある」について売手と買手の心理に分けて述べてみたい。

◇売手の心理…あるある

●手塩にかけて育てた会社なので愛着が大きい⇒相場よりも高い価格を期待しがち

●買手が自分の希望する金額を提示しなければ、今売る必要はない⇒タイミングを逃して結局手遅れになるケースも

●最終契約日が近づくにつれ不安になる⇒結婚で言うところの「マリッジブルー」

●買手は口では良いことを言っているが、買収後に豹変するのではないか⇒役員、従業員の解雇については、不安なら契約書に謳うべき

最終契約書表明保証で売却後も責任を負わされるのではないか⇒デューデリジェンス資産査定)の時に包み隠さず開示すること(M&Aの世界では表明保証が一般的)   

●買手は買収後も自分を必要とするはず⇒慢心には注意が必要(近時は人材不足から必要とされるケースが多いのは事実)

◇買手の心理…あるある

●会社を救ってやるのだから四の五の言うな⇒仮に買収できたとしても必ず失敗します。そもそも売却拒否されます

●売手の会社の企業価値が低く出るように評価を厳しく見てやろう⇒買手自らシナジーを見つけれないのなら買収すべきではない

デューデリジェンスを徹底的に厳しく行い価格を下げてやろう⇒会計士や弁護士はただでさえ厳しく見がちです

●粉飾決算簿外債務があるのではないか⇒デューデリジェンスでチェックすればよい。最終的には表明保証で縛ることも可

●買収後の経営を1日も早く自分色に染めたい⇒買収先の従業員から退職者が出てしまうことも

●買収したこと(実績)を誰かに話したい⇒買収することが目的になっており、大半のケースで失敗に終わる

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売手と買手は利益が相反しており、真逆の考え方となってしまう傾向にある。ただし、冷静に相手の立場になって考えれば、おのずと自身がとるべき振る舞いや考え方はみな同じといえる。自分の私利私欲に固執することなく、互いが相手を思いやり、従業員や取引先にとってもベストな選択をまず一番に考えるべき。

日本経済を支える中小企業の代表者であることに誇りを持ち、自分ができる社会貢献は何なのかを吟味しM&Aに取り組んで欲しいと切に願う。

われわれ事業承継関係者も常に自省しなければならない。売手、買手両方の深層心理をよく理解し、目の前のディールは本当に世のため人のためになるのかといったことを念頭に置きながら、成約に向けた活動、アドバイスを継続して行うことが大切だ。フィーの大小のみに着目したようなアドバイザー、仲介は厳に慎むべきは言うまでもない。。

文:Antribe社長・小林伸行(M&A アドバイザー