PMI(Post Merger Integration)とは企業買収後の経営統合作業のことをいう。一般的にPMI基本合意書を締結する前から検討され、実務的には具体的な「100日プラン」(呼び名はケースによりさまざま)なるものに落とし込まれ、これが被買収企業の中期事業計画になるケースが多い。

人間関係を円滑にする…「角栄」語録

PMIを進めるにあたっては、譲渡側、譲受側双方の経営幹部はもちろん、社員同士の十分なコミュニケーションが大切となる。しかし、特に中小零細企業の場合、買収後のコミュニケーション不足が要因で現場に混乱が生じるケースも実際に多くある。

これを未然に防ぐためには経営トップや経営幹部の強力なリーダーシップとマネジメントが求められるが、私は常々、田中角栄(元首相、敬称略)の考え方や言葉にPMIを成功に導くヒントがあると考えている。その中からいくつかご紹介したい。

初めに結論を言え。理由は3つまで。

何事も合理性を重んじる、ということ。大切なことや物事の本質はいつも平易で短く表現すべきで、3つでまとめきれない話は、話がまとまってないことが多く聞き手も理解しづらいことが多い(私もいつも気を付けていることです)。

手柄はすべて部下に与える。ドロは自分がかぶる。叱る時はサシの時にしろ。褒める時は大勢の前で褒めてやれ。

人を使う立場にある人は「公平」「信賞必罰」「配慮」が重要であると角栄は言っていた。経営者たるもの手柄と責任を明確にし、組織を上手く使いこなす器が求められる。

ウソをつくな。すぐバレる。気の利いたことを言おうとするな。あとが続かない。

角栄は小手先のテクニックで自分を大きく見せることを嫌った。仕事を進めるうえで必要なことは、背伸びをせず、相手を見下さず、誠実に向き合うこと。当たり前のようで実践するのはなかなか難しい、理想とする心構えである。

顔と名前は1回で覚えよ。

私はなかなかこれが出来ない(汗)。角栄は人の名前とプロフィールを頭にいれることにかけて恐ろしいほど精力を傾けたと言われている。部下の出身地や出身校、家族構成を頭に入れておき「お前のことはよく知っているぞ」となれば、部下も俄然やる気を出し仕事に邁進してくれるであろう(今の若者もこういうことを意気に感じてくれることを祈って!)。

部下に対しネチネチとやるのは大嫌い。叱ったとしても次に会った時はもう忘れているくらいで丁度いい。

すぐに怒るがすぐ忘れる人と、一度怒ったら決して忘れない人。どちらもいるタイプだが、部下から見て魅力に感じるのは前者であろう。遅くとも次に会ったとき、早ければ怒った1時間後には「悪かったな。また会おう。飲もう。」と自分から持ち掛けるくらいであれば、自然に関係も深まっていくものだ。角栄はこれを「特技」とし、その明るくカラッとした性格に惚れ込んだ政治家は数知れないと言われている。

優れた指導者は人間を好き嫌いしない。肝心なのは大事を任せられる人を見つけること。

「いかに人を動かすか」という意味では政治も仕事も似ていると思う。人を見出し、人を動かせる人間が優れたリーダーであると角栄は言っている。角栄は質量ともに日本一のブレーンと人材に恵まれた。

角栄自身はそれを「総合病院」にたとえ、「ウチはどんな難題でも解決してみせる」と豪語し、しかもそれは決して虚言ではなかったと言われている。世の中は最終的には「人間」が動かしている。経営者や指導者はいつも「人事力」と「人材発掘力」が求められる。

M&Aに本来、勝った負けたはない

田中角栄の言葉、考え方、いかがでしょう? M&Aはともすると買収側が勝ち、被買収側が負け、というような考えかたをする方がいまだにいるが、それは確実に間違いといえる。

お客様にとって、ひいてはそれが世の中にとってベストな選択であると考えるならば売手、買手ともに正々堂々とM&Aを利用すべき。そして、売手、買手両方の社員に「新しいメンバーと今まで以上に楽しい仕事ができる」と思わせ、一日も早く安心感を与えられることが、真の意味でのPMIであると私は思っている。

旧田中邸の一部は目白台運動公園となっている(東京都文京区内)

文:Antribe社長・小林伸行(M&Aアドバイザー