「相続は公平に」という考えは、会社経営には通用しにくい!?

次代の後継者に事業をバトンタッチする「事業承継」。規模の大小にかかわらず、株式を上場していない企業においては「『相続と経営』という2つの課題を解決していくことが課題」と語るのは、事業承継やM&Aに詳しい税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナー・公認会計士・税理士小宮孝之氏だ。実際に事業承継に悩む中小企業の社長に向けて、その手法や税制の活用についてお話をを伺った。

税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナー・公認会計士・税理士小宮孝之氏

「相反するもの」を解決する必要があるのが、事業承継問題である

――事業承継には「相続と経営の2つの課題を解決しなければならない」と思います。今後、事業承継を考えている社長さんに向けて、どのように考えたらよいか教えてください。

小宮氏:一言でいうと、相続と経営って本当に相反するものなんですね。すなわち「相反するものを解決する」というむずかしさなんです。

 相続は、まず、「公平に分ける」ということを由とします。たとえば、ご主人と奥さんがいて、子どもが3人いて、ご主人が亡くなったとします。するとご主人の財産は、半分は奥さんが相続し、半分は子どもが相続します。子どもが3人の場合は、子どもが相続した財産を3人で均等に分けるという考え方が基本になります。すなわち、均等であればあるほど公平な相続対策になり、それが望ましいとされ、実際、そう対応されている方も多いと思います。

 ところが、相続財産のうち、たとえば分けにくい不動産を共有持ち分で3人が仲よく3等分して相続した状態だと、その後、修繕をするにしても売却するにしても、意見が食い違うとスムーズには対応できなくなってしまいますよね。

 経営においてこういったことが起こると、経営そのものが立ちいかなくなってしまうこともあるのです。つまり、経営というのは、スムーズな意思決定のためには、均等に分けるのではなく、先代の財産、とくに自社株については後継者に集中させる必要があるわけです。

 相続財産も相続税も億単位の額になるケースも多いので、「相続は均等に分けなさい。でも経営としては集中させなさい」となると、社長も後継者も、正直なところ困ってしまいますよね。

――「スムーズな意思決定」というと、株式の過半数をもっているかどうか、ということでしょうか。

小宮氏:そうですね。過半数を持っていないと取締役も選べませんし、そのほかにもM&Aなど特別な決議事項については3分の2の株式が必要ですから、不足すると議決権を満たさなくなってしまいます。つまり、「均等に分ける」という発想だと、大事なことは何も意思決定できなくなってしまうようなことになるんですよね。

 相続の絡んだ事業承継では、公平というよりどこかに集中させないといけない――、この部分が経営と相続でまったく異なる考え方になるということですね。

――そこで、社長の皆さんはどのように対応しているのでしょう。

小宮氏:いまお話したことは中小企業の皆さんもよくわかっていて、結局、バランスを保つという考え方にならざるを得ないのかな、と思いますね。たとえば、きょうだいが2人いて、1人に株式を集中させて、もう1人が株式以外の資産を譲り受ける。それで相続財産のバランスがよくなければ、経営権に影響しない範囲で株式を持っていないほうに少し持ってもらったり、他の金融資産を相続してもらったりして調整するわけです。そのバランスをとるのは、本当にむずかしいですね。

――相続と事業承継。共通する対策としては、どのような手法があるのでしょう?

小宮氏:どんな手法にしろ、自社株の場合はその評価額を引き下げることができれば負担を減らしつつ調整できますから、典型的には退職時に前経営者に対して退職金を支払うという方法がありますね。前経営者に大きな額の退職金を支払えば、会社としては黒字が減り赤字にもなります。すると、業績を反映した自社株の評価額は一瞬下がります。そうなれば、株式を移しやすくなるということはあります。

 ただ、そういった手法にもタイミングがあり、もちろん税法や税制に反することはできません。そこで皆さん、苦労はされているわけです。

――自社株については、最近、海外の子会社についても扱いに苦慮されている社長さんも多いと聞いています。

小宮氏:そうだと思いますね。経営として問題があるのは、中小企業・非上場企業といっても海外に子会社などがある場合です。海外の子会社でも、子会社であるなら、その子会社の株式は日本の会社が持っているということになります。その海外子会社の株式を評価するときに、ものすごく高い価額になることもある。すると、何か対策をとろうと思っても単純には対策のとりようがないということもあります。

 海外だと法律や税制も日本とは違うこともあり、対応の善し悪しを判断するのにも、ワンクッションある感覚ですしね。非常にむずかしい問題です。

税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナー・公認会計士・税理士小宮孝之氏

事業承継策のひとつとしてのM&A

――そもそも事業承継の問題は、戦後成長してきた中小企業の社長が高齢になって、いよいよお子さんに経営を譲る時期になったという背景のなかで出てきた課題だと思います。そこにM&Aがその手法の一つとして脚光を浴びてきた、という理解でいいでしょうか?

小宮氏:そうですね。いま60代や70代の社長で後継者が決まってないという方は、おそらく6割くらいはいるだろうといわれています。自分は元気だと思っているからこれまで考えたこともないとか、考える気がないとか、お子さんがいないとか別の仕事に就いているとかで現実に適切な後継者がいないとか、理由はさまざまでしょうけど。

 今後も社長の平均年齢は高齢化していくでしょうから、事業承継の問題は今後も続くでしょうね。お子さんの数も増えてはいないので、後継者難という問題も続くでしょう。

――後継者難という面では、皆さんどういう対策をされているのでしょうか?

小宮氏:これまでは、社長の息子さんや息子がいない場合でも親族が経営を継ぐという考え方が伝統的にあったとは思います。ですが、そういう社会背景も変わってきました。そのなかで典型的な承継としては第三者に譲るという対応がありますね。第三者に譲るという考え方が浸透するなかで、M&Aという手法も一つの選択肢になってきたように思います。

 すると、私たちの仕事として、これまでの社長の相続対策では、相続「税」の対策が主眼だったのですが、いまはM&Aのデューデリジェンス(資産や買収対象企業の価値や収益力、リスクなどを詳細かつ多角的に調査し評価すること)という仕事も増えてきました。どちらかというと相続税対策は対策の一つであって、むしろ経営の観点に主眼を置くようにもなってきています。そのような背景もあり、事業承継デューデリジェンスといったことも脚光を浴びてきているんだと思いますね。

――従来の税理士・会計事務所とは仕事のウェートが変わってきているんですね。

小宮氏:昔は相続税対策中心に、いわば、できるだけ納税負担を減らしたいという意向を汲んだ対応も重要でしたが、いまはだいぶ様変わりしてきましたね。場合によっては会社を継続させることを第一に考えれば、相続税負担がいちばん少ないのが好ましいとは限らない、といったこともありますね。

――次回はより具体的なアドバイスについて伺いたいと思います。ありがとうございました。

(次回に続く)

取材・文:M&A Online編集部