日本政府は今後10年間で130万社ほどの中小企業が後継者難に陥るとみて、M&Aを通じた事業承継の支援強化に乗り出す。その一方で、M&A に伴う従業員の健康面のフォローや雇用の維持などの対策は手つかずの状態だ。今後M&Aが日常化することが見込まれる中、こうした面での支援策を早急に打ち出すことが重要だ。

中小企業向けM&A支援策に期待集まる

  政府は2018年度(平成30年度)の税制改革で、M&Aを促進するための施策をいくつか用意している。その一つが「自社株式を対価とした株式取得による事業再編の円滑カ措置の創設」。これは株式対価M&Aに関する株式譲渡益への課税が繰り延べされる措置で、今後のM&Aにおいて大きな変革をもたらすものとして期待が集まっている。

 このほか「中小企業・小規模事業者の再編・統合等に係る税負担の軽減措置の創設」は、ある企業の事業を別の企業へ譲渡するなどの際に、土地や建物にかかる税金が軽減されるもの。「中小企業経営者の次世代経営者への引継ぎを支援する税制措置の創設・拡充」は、事業承継後に株価が下落した場合に、贈与税や相続税の税負担が軽減されるもの。いずれもM&Aを活性化させる効果が見込める。

   こうした企業に向けた支援策は次々と打ち出されているものの、従業員に目を向けた時は、寂しものがある。ある都内の企業に長年務めてきたA子さんは勤務先が他社に買収され、社内の雰囲気が以前とは大きく変わってしまったことに耐え切れず、最近この企業をやめてしまった。買収する側の企業はM&Aを成功させるために、自社の経営理念を浸透させようと買収先企業の意識改革に熱心に取り組むことがよくある。これによって社内の雰囲気が変わるのは当然の成り行きであり、この変化に伴って業績が好転するのであれば、買収された企業にとってもプラスとなる。

 同時にA子さんのように雰囲気の変化についていけず、退職する人が現れることも、一定の割合で発生することは避けられないだろう。退職者については現制度のもと雇用保険などによって再就職の支援が受けられるが、これだけでは不十分だ。今後M&Aを通じた事業承継の実現を目指す政府の姿勢を、より強く国民に伝えるためには、これら制度に加えて、従業員を対象とした新たな制度の創設が肝心だ。