事業承継と相続(2)具体的な相続対策とは

次代の後継者に事業をバトンタッチする事業承継。「規模の大小にかかわらず、株式を上場していない企業においては『相続と経営』という2つの課題を解決していくことが課題だ」と語るのは、税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナー・公認会計士・税理士小宮孝之氏だ。後編は、非上場株式の評価と相続税評価の違いや相続時精算課税制度の併用など、具体的なアドバイスをいただいた。

税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナー・公認会計士・税理士小宮孝之氏

大事なのは「後継者が誰か決まっている」ということ

――事業承継と相続税対策を合わせて考えると、より長期的な対応が欠かせないとよくいわれます。具体的にはどのような手法になるのでしょう?

小宮氏:典型的でわかりやすいケースを想定してみましょう。会社が順調で利益も毎年出していて、自社株の評価額も上がっていて、社長の息子が何年か前から会社に入って、社員や取引先から「息子が次期社長だ」と概ね認められてきているというケースです。すると、評価額の上がってきた株式を「少しずつ息子に移したほうがいい」となり、何年もかけて徐々に自社株を移していくわけです。

 贈与していっても年間110万円までは課税されませんから、110万円を少し超えた評価額で移していくわけです。そうすれば納税の実績もできて、毎年、自社株の評価も算出するので、いい、と。その方法だと20年で、評価額として2,000万円強は移せたことになります。ただ、大きな額を移せたといっても、社長の持っている億単位の自社株の評価額からすると、実は「ほとんど移っていない」ともいえます。

 そして社長が引退し、持っている残りの自社株をまとめて息子さんに譲る段階で、大きな額の退職金を社長に支払うわけです。すると会社が赤字になり、それで自社株の評価額を下げることができ、負担を減らして譲ることができます。

 ただし、それでも金額が大きい場合は贈与税がかかります。それに対しては2017年度の税制改正で事業承継時の贈与税の納税猶予策が拡充されていますので、それを活用した対応も考えられます。

 これは理想的かつわかりやすい手法ですが、いずれにせよ、基本としては長い期間をかけて計画的に対策をとっていくことが欠かせませんね。

――逆にとんでもなくややこしいケース、あわてて付け焼き刃な対応を求めるケースもあるはずですよね。

小宮氏:ええ、ありますよ(笑)。いま申し上げたのはいわばモデルケースですが、実は「何も対策をとらないまま相続と事業承継を迎えてしまった」というケースが最も多いんです。株式の評価額も相続税額も億円単位になるケースもあって、「そんな額、払えません!」と困ってしまうケースですね。

――評価額が多額で支払えないとなった場合、どうアドバイスするのですか?

小宮氏:それはまさにケース・バイ・ケースですが、大事なのは「後継者が誰か決まっている」ということです。これははっきりさせないといけません。お子さん、親族、第三者、いずれにせよ後継者が決まっていることと併せて、後継者がその気になっているかどうか。これが出来ていないと対策の打ちようがありません。

――対策として、第三者が後継者になるケースも増えてきています。たとえば役員がMBO(マネジメント・バイアウト=経営陣による買収)するケースもあると聞きましたが。

小宮氏:それも一つのケースですね。そのほかにも第三者であるファンドに買ってもらうといった方法もあります。

 ファンドとしてはずっと買収した株式を持ち続ける、すなわちずっと経営するつもりはなくて、いわゆる“出口”、その株式を売却することをにらみながら、適切な時期にその会社を経営できる人に株式を購入してもらうということになります。最近では、いくつかの手法を組み合わせて、ファンドには株式の一部を買ってもらうような手法もありますね。

――なぜファンドなのでしょうか?

小宮氏:ファンドを活用する理由は、単純にいうと誰かに譲る、買ってもらうにしても金額が大きくなるからですね。もちろん、買収したあと、会社がうまくいっていない場合は立て直さなくてはいけませんし、場合によっては既存事業をリストラして新しい事業に進出しないといけないこともあります。すると、どうしても、第三者の知恵が必要です。そのとき事業再生の実績のあるファンドの力が重要にもなります。

――ファンドというのは、ファンドを組むことを専業としている事業会社なんですか?

小宮氏:それは、いろいろありますよ。金融機関が別会社や事業部として運営している組織もあれば、一般の事業会社やお金持ちの個人が出資してつくっているファンドもあります。「事業承継○○ファンド」など、それぞれに特徴を出して運営しているわけです。

――事業承継ファンドを活用するという手法に、問題点はありますか?

小宮氏:デューデリジェンスの実作業での課題はとてもテクニカルな話になるのですが、手法全体の問題点を一言でいうと、ファンドは「安く買って高く売る」ビジネスで、「将来的に会社をよくしていく」といった発想とは少し異なるところがあるということですね。一方、「高く売れれば会社はよくなっている」ということもできますから、一言では言い切れない面もあります。

 ただ、もとのオーナーにしてみれば、第三者に買ってもらう場合、税金面では相続や贈与よりも有利です。譲渡益に対する課税は高くても2割ほどですから。第三者に売るということに抵抗感がなければ、非常にメリットのある方法の一つとはいえます。

――ところで、そもそも非上場の自社株の評価額がそんなに高額になっていいものかどうか、という疑問があります。

小宮氏:そもそも非上場株式の評価は、相続税法の規定で言えば、類似業種比準方式や純資産価額方式、または両者の併用方式といった手法で算出します。税制でその計算式や扱いも示されています。

 ところが、相続税法で示されている計算方法は、相続以外の局面においては「絶対に従わなくてはいけない」という性質のものでもないんです。計算方法としてこれらの方式を参考にすることはよくありますが、結果としてそれ以外の方法でも第三者間の取引を前提とした妥当な評価になっていれば、それはそれでいいのです。

――非上場株式の相続税評価に比べ、第三者間の取引における評価はずいぶんゆるいんですね。

小宮氏:ただし、たとえば、類似業種批准方式は文字どおり類似した業種と比べるわけですから、どうしてもマーケットの影響を受けます。ですから、評価した時点でマーケットの株価が高いとその会社の株式の評価額も高く出てしまうし、マーケットの株価が低いと当然低くなる。そこが見通せない、予想できないところは少しありますね。

 一方で、一般論でいうと、相続税の財産評価の額は概ね実態よりも低く出るようにはなっています。ですから、「自社株の評価額だけが高い」というのは当たらないと思いますね。それに、税制として計算式が示されているということは、その計算式のなかでどう対策したらよいかがわかりやすいということもできます。

税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナー・公認会計士・税理士小宮孝之氏

相続税・贈与税の納税猶予の要件が緩和された

――ところで、2017年度の税制改正では、事業承継税制の要件の見直しがなされました。何がどう変わったのか、簡潔に教えていただけますか?

小宮氏:相続税・贈与税の納税猶予に関してですね。自社株の評価額が高いと、事業を承継するときに相続税や贈与税が発生します。ところが、その納税がむずかしい場合に、納税猶予という制度があります。

 従来、一定の要件を満たす場合、贈与税は算出した税額の全額を猶予し、相続税はその8割を猶予していて、その一定の要件の一つに、雇用要件といわれるものがあります。従業員の雇用人数が減少した場合、「人数が減りすぎたら、要件を満たしません」という規定で、従来はそれが80%でした。つまり納税を猶予してもらっていても、相続や贈与をしたときより従業員数が8割より減少すると、その時点で納税してくださいということです。たとえば100人の従業員の会社が79人になると要件を満たさなくなるということです。

 ところが、たとえば「4人の従業員しかいない会社では、1人減っても要件を満たさないことになるか?」となった。75%になりますから、80%という規定では満たさなくなります。「それは問題だ」ということになり、3人でも猶予するということになったわけです。「80%で計算した人数の端数は切捨てとする」という見直しですね。ですから、3人の会社が2人になっても、2人の会社が1人になっても雇用要件は満たしているということになります。

――中小企業のなかでも小規模な企業は恩恵を受けられますね。

小宮氏:そうですね。ところが、いつまで猶予されるかという問題はありますね。納税の猶予では「5年間平均での従業員数」が雇用要件の原則ですが、逆にいうと、5年間は“モニタリング期間”として、雇用要件を満たしているかどうか、当局からウォッチされるということです。そのほかの見直しでは、納税猶予の制度と相続時精算課税制度の併用も可能になりましたね。

――相続時精算課税制度の併用には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

小宮氏:相続時精算課税制度の併用では、自社株についてはその制度を活用したときに贈与したとして株価を確定し、相続のときに精算することになります。ところが、実際には贈与に際して納税の猶予を受けているのですから、結局、猶予が取り消された場合の納税額を低く抑えることもできるわけです。

 たとえば、中小企業庁の資料の例にもありますが、1株100万円で300株、株価総額を3億円として、先代から後継者である息子に3分の2の200株を贈与して納税猶予を使っていたけど、要件を満たさなくなって猶予が取り消されたと想定しましょう。概算ですが、猶予が取り消された場合の納税額は1億300万円ほどになります。これは贈与をしなかった場合の相続税をはるかに上回る金額です。ところが、相続時精算課税制度を併用すると、猶予が取り消された場合の納税額はこの税額とならず、元々の相続税額を上回るような税負担とならないように、納税リスクを軽減することができます。

 それと、要件の緩和については、たとえば災害や取引先の倒産が発生した場合にも、雇用要件が緩和されています。災害や取引先の倒産でやむなく規模を縮小せざるを得ないような場合は、雇用要件が免除されるということです。

――そのような緩和策を社長さんはどう評価されていますか?

小宮氏:概ね小規模企業とその経営環境の実情を踏まえた見直しですが、「5年間平均で80%以上」という基準そのものをもっと引き下げてほしいという意見はありますね。たとえば、50%以上とかですね。雇用が多様化すると、経営状況によって従業員数が大きく変動してしまうことも十分にあり得ますから。

 ただ、「5年間平均で」という原則も、緩和されてその数字になってきたわけです。いわば「単年度に従業員数の大幅な減少があった場合、どうすべきか」という判断からの緩和です。税制では、最初は要件を“厳しめ”に設定して、以後は状況を踏まえつつ緩和していくこともよくあるようです。そうしたことも踏まえつつ、自社が使える制度というものをチェックしておきたいですね。

 ――ありがとうございました。(完)

取材・文:M&A Online編集部