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トヨタは電気自動車の普及に、どこまで「本気」で取り組むのか?
トヨタ自動車が「電気自動車(EV)の普及を目指して」と題する新たなEV戦略を発表した。しかし、その内容は意外なものだった。軽自動車よりも小さい超小型EVや電動キックボードなどの「補助車両」ばかり。トヨタは、どこまで本気でEVに取り組むのか。
李首相の視察と、この時の豊田社長とのトップ会談が功を奏したのか、中国政府はトヨタに「見返り」を与えている。これまでハイブリッド車(HV)を対象外としていたNEV優遇政策の見直しを進めているのだ。
2019年規制ではガソリン車やHVを100万台生産するために、航続距離400キロメートルの本格的なEVを2万台生産する必要があった。ところが、中国政府が2019年7月に提示した修正案ではガソリン車を100万台生産するために必要なEV生産台数が3万6000台に引き上げられる一方で、HVは新たに設けられた「低燃費車」となり100万台生産するのに必要なEV生産は7000台と現行の3分の1近くまで軽減されるのだ。
こうしたHVに対する環境規制の緩和は、HVで世界のトップを独走するトヨタに対する「優遇策」にほかならない。トヨタにしても世界最大の自動車市場でHVの商機が広がるだけに、注力するのも当然といえる。一方、中国政府としても米中貿易摩擦の激化で、自国の自動車産業が打撃を受けるのは避けられない。トヨタを中国市場で取り込むことで、自動車産業の衰退を避けたい思惑が透けて見える。
もちろん中国でビジネスを拡大するのは、トヨタにとってメリットが大きい。しかし、中国でトヨタ車のシェアが伸びたから万々歳とは言い切れない厄介な問題もはらんでいる。「貿易問題の解決」を2020年の大統領選挙での成果としたいドナルド・トランプ大統領の存在だ。
トランプ大統領は2019年8月にフランスで開かれたG7に併せて実施した安倍晋三首相とのトップ交渉で、日本側に農産物の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)並みの貿易自由化を約束させた一方、TPPではゼロになるはずの自動車輸入関税は現状維持を貫いた。日本車に対する「追加関税カード」も持ったままだ。
トヨタを皮切りに日本車メーカーが中国市場への関与を深めた場合、トランプ政権から何らかの圧力がかかる可能性もある。特に中国に進出している米国車メーカーが関税報復措置によって不利な立場となり、その穴を埋めるような形で販売が伸びた場合は日本車に対する追加関税の発動といった「とばっちり」をくらいかねない。
トヨタはじめ日本車メーカーの中国戦略は、米国の「政治」というやっかいな要因に振り回されることになりそうだ。本来なら日本政府が対応すべき問題だが、残念ながら政治による解決は期待薄だろう。
文:M&A Online編集部
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トヨタ自動車が「電気自動車(EV)の普及を目指して」と題する新たなEV戦略を発表した。しかし、その内容は意外なものだった。軽自動車よりも小さい超小型EVや電動キックボードなどの「補助車両」ばかり。トヨタは、どこまで本気でEVに取り組むのか。