2016年5月26日、東京地裁は、民事再生手続きが開始されて再生債務者となった会社が、いわゆる分割型新設分割に伴って行われた、新設会社の株式を配当財産とする剰余金の配当に関して、再生債務者の監査委員から民事再生法上の否認の請求がなされた事案について、かかる請求を棄却する旨の判決を下しました。
会社法上、会社分割における分割対価は分割会社だけが受け取るものとされているものの、吸収分割契約又は新設分割計画の定めにより、会社分割の効力発生と同時に、分割対価として受けた承継会社又は新設会社の株式を、剰余金の配当として株主に交付することができ(会社法763条1項12号ロ)(いわゆる分割型分割)、その場合には債権者異議手続きを要する代わりに分配可能額の規制は受けないものとされています。
当該判決では、まず分割型新設分割に伴う剰余金の配当の性質について、新設分割と全く独立した法律行為と捉えるべきではなく、新設分割自体と密接に関連する法律行為であって、否認権の行使の可否ついては「会社の組織に関する行為」である会社分割に準じて検討・判断すべきものとしました。その上で、①新設分割時点からの債権者については、剰余金の配当を行うことも含めて、新設分割に対して債権者異議申述することで自己の利益を確保する機会が与えられていたこと等、②新設分割後の債権者については、新設分割後の財産状態を前提として債権を有するに至ったはずであること等から、いずれの債権者についても、新設分割の法的安定性を害してまで新設分割後に剰余金の配当に対する否認権の行使を認めることにより保護すべき利益があるとは認められず、債権者異議手続きにおける事前開示書面の内容に虚偽記載があった等の特段の事情がない限り、否認権の行使は認められない旨の判断を示しました。
当該判決は、会社分割の法的安定性と債権者保護の必要性のバランスについて検討・考慮した、民事再生法上の否認権行使の可否に関する数少ない裁判例であり、会社分割に関して民法上の詐害行為取消権が行使される場面においても参考になるものと思われます。
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文:森・濱田松本法律事務所Client Alert 2016年9月号Vol.33より転載