会社がM&Aを行った際に従業員の「有給休暇の扱い」はどうなるのでしょうか。まず、大前提として、合併前の会社と従業員の間で結んでいた労働契約は、合併後の会社にそのまま引き継がれます。ですから、「年次有休休暇の扱い」も、合併前の勤続年数による付与日数などの契約内容が、そのまま引き継がれることになります。その契約内容に沿った有給休暇の取得申請を合併後の会社は拒否することはできません。
ただし、これは大前提となる法律の決まりです(「吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する」会社法第750条、昭和23年1月25日基収発第168号など)。ただし、これは根拠となる法律です。そのため、この条文だけで、「有休休暇の扱い」がすべて解決されるというものでもありません。また、M&Aと一口にいっても、会社分割制度を活用したとなれば、会社法の特別法である「労働契約承継法」が適用されます。M&Aの手法や個別の事情によっては、会社と従業員が話し合い、解決の道を探ることもあるでしょう。
さらに、従業員にしてみれば、「合併前の会社は有休を取りやすかったが、合併後は取りにくくなった」など法律の規定とは別の感情論もあるはずです。そうした不平・不満に端を発するトラブルは、会社として事前になくしたいものです。
では、以下にその個別のケースについて、いくつかの典型例を挙げて解決の方法を考えてみましょう。
有休の買取り制度が合併前の会社にはあり、それを合併後の会社に請求するケースです。その場合、どのような買取り制度であったかを確認する必要があります。法律上、有休の買取りが認められるのは次の場合に限られます。
もし合併前の会社で、上記以外の買取り制度があったとしたら、それは法律に反していて間違っていたということができます。このケースにおいては、消滅前の有休を買い取ることは法律上禁止されていますので、その請求に応じる必要はありません。
一方、すでに消滅してしまった有休を買い取ることは法的には禁止されていませんので、従業員の既得権に不利益にならないよう対応する必要があるでしょう。
現実的な対応として、有給休暇制度の主旨は従業員が休養をとり、心身の疲労を回復させる目的としたものですので、有休の消化促進のためにも、合併後の1回だけの特別な措置として買取りを認め、以後は認めないなどを雇用契約書その他で明言しておくという方法があります。