2016年7月1日、最高裁第一小法廷は、当時JASDAQ上場企業であった株式会社ジュピターテレコム(「JCOM」)に対する公開買付けと全部取得条項付種類株式を用いた二段階取引による非公開化取引において、JCOMの株主が取得価格の決定の申立て(会社法172条)を行った事案について、取得価格は公開買付価格と同額に定める旨の決定をしました。なお、当事務所は、公開買付けの検討段階からJCOM側で本件に関与しており、価格決定の裁判手続においてもJCOMの代理人を務めておりました。

 当該事案は、二当事者で併せて総議決権の70%以上を保有するJCOMの多数株主が行った非公開化取引であったところ、最高裁は、多数株主又はJCOMと少数株主との間に利益相反関係が存在する場合であっても、独立した第三者委員会や専門家の意見を聴く等多数株主又はJCOMと少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、また、公開買付けに応募しなかった株主の保有する株式も公開買付価格と同額で取得する旨が明示されている等一般に公正と認められる手続きにより公開買付けが行われて、その後に公開買付価格と同額で全部取得条項付種類株式の取得が行われた場合には、これらの取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、取得価格は公開買付価格と同額とするのが相当であるとし、手続きの公正性が認められる本件では、公開買付価格と同額の価格が「公正な価格」であると判断しました。

 さらに、最高裁は、株式市況の変動を考慮することについても、意思決定過程の恣意性が排除され、一般に公正と認められる手続きが採られたのであれば、公開買付価格は多数株主又はJCOMと少数株主との間の利害が適切に調整された結果が反映されたものであり、取得日までに生ずべき市場の一般的な価格変動についても織り込んだ上で定められているということができるとして、原則として、市場全体の株価の動向を踏まえた回帰分析による補正後の株価を考慮することは裁判所の合理的な裁量を逸脱するものとしました。

 本最高裁決定は、独立当事者間の組織再編取引ではなく、構造的な利益相反関係が存在する二段階取引の事例における、株式買取請求や価格決定の申立ての「公正な価格」の判断方法につき、最高裁が実質的な判断を示した初めての決定であり、また、構造的な利益相反関係が存在しても、意思決定過程の恣意性を排除し、一般に公正と認められる手続きを採れば、当事者が定めた価格が尊重されることを明らかにした実務上も重要な意義を有するものといえます。さらに、公開買付け開始後の株式市況の変動という外部的要因による株価の補正を明確に否定し、M&Aを行う取引当事者の予測可能性を向上させる判断を示した点においても、実務上重要な意義を有するものといえます。

弁護士 大石 篤史
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弁護士 徳田 安崇
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文:森・濱田松本法律事務所Client Alert 2016年8月号Vol.32より転載