【法律とM&A】株式等売渡請求に係る公告後に売渡株式を取得した者による 売買価格決定申立ての可否
今回は、株式等売渡請求に関する対象会社の通知又は公告後に、売渡株式を取得した株主による売買価格決定の申立てをめぐる裁判例を紹介します。
2017年3月9日、東京地裁は、X社が、Y社に対して、Y社が一部の事業(「譲渡対象事業」)をX社に譲り渡す内容の事業譲渡契約を詐欺により取り消した上で既払いの譲渡代金の一部返還を求めた事案について、当該事業譲渡契約の詐欺取消しを認め、Y社に対して、譲渡代金のX社への一部返還を命じる判決を行いました。
東京地裁は、当該事案において、①Y社の代表者が、X社の代表者に対して、実態を反映していない譲渡対象事業の損益推移表を示し、譲渡対象事業の営業利益が2,500万円程度になるという虚偽の事実を伝えたこと、②これにより、X社の代表者が、譲渡対象事業において2,500万円程度の営業利益を上げられると誤信したこと、③当該誤信に基づいて譲渡代金が定められたことを認定したうえで、X社の代表者の意思表示は詐欺取消しにより無効になると判断しました。
M&A実務において、契約締結の前提となった条件とは異なる状況が事後的に判明することは稀ではありませんが、義務違反や表明保証違反に基づく損害賠償を超えて、締結した契約の詐欺取消しを認める事例は多くありません。本判決は、M&Aに関する契約であっても、売主が積極的に虚偽の説明をした場合には、契約の詐欺取消しが認められる場合があることを示した事例であり、今後のM&A実務においても参考にはなるものと思われます。もっとも、M&A実務において規定されることの多い、クロージング後の詐欺取消しを制限する条項があった場合において、裁判所がどのように判断するかは本判決からは明らかではないため、今後の裁判例の蓄積を待つ必要があるといえます。
パートナー 大石 篤史
アソシエイト 岡野 貴明
今回は、株式等売渡請求に関する対象会社の通知又は公告後に、売渡株式を取得した株主による売買価格決定の申立てをめぐる裁判例を紹介します。
「チェンジオブコントロール条項」は、契約条項に触れるような事象が起きるM&Aなどの場面では、特に要注意です。