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ミッション・ビジョン・パーパス|M&Aに効く論語8

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nortonrsx/iStock

「論語と算盤」で考える

 渋沢栄一『論語と算盤』(角川ソフィア文庫版)にこのような一節があります。

「真正の利殖は仁義道徳に基づかなければ、決して永続するものではないと私は考える。」(「真正の利殖法」より)

 これは、孟子の「梁惠王上」にある「なんぞ必ずしも利を曰わん、また仁義あるのみ」からきているのです。

 渋沢栄一はとても「仁義」が好きで、この本で何度も何度も出てきます。そもそも、冒頭に根幹として「富をなす根源は何かといえば、仁義道徳」と言い切っているのです(「論語と算盤は甚だ遠くして甚だ近いもの」より)。

 これを、儒教の中にある封建的な忠心(まごころをこめて勤めを果たす、あるいは国や上の者に仕える)、孝悌(親、兄など目上に尽くし従う)を合わせて考えてしまうと、またしても、私たちの生きている現代にはそぐわないケースが出てきてしまい、とても窮屈な考えになっていきます。

 ミッション・ビジョン・パーパスを、窮屈な、自分たちの行動や発想を縛る掟のようなものにしては、成長は止まります。実際に、どの企業も、しょっちゅうではありませんが、ミッション・ビジョンは変革していきますし、パーパスも時に応じて変化していきます。

 この変化を促すのが、仁義に関与してくる「智」であり「礼」であり「信」だと言えます。つまり、仁義の根幹は普遍性を持っていますが(究極としては「愛」なのでしょう)、それを時機に応じて変化させていくのが、「智、礼、信」なのです。

 主忠信徒義、崇徳也(誠と信を第一にして義へ向えば、徳を高めることになる)ということは、パーパスの設定のために、誠と信を基礎としてほしい、と解釈できるのではないでしょうか。本質に根ざしたパーパスを設定しなければ、結果に結びつかないのです。

 信義、という言葉はこうした意味を持っているのではないでしょうか。真心を持って約束を果たすことを「信義」と言いますが、そこには、信に基づいた義(パーパス)があるのです。

 次回、は「智(知)」と「仁」「義」の関係について、考えていくことにしましょう。

※『論語』の漢文、読み下し文は岩波文庫版・金谷治訳注に準拠しています。

文・舛本哲郎(ライター・行政書士)

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