皆さんは、ライブドアによるニッポン放送に対する敵対的買収*1(2005年)や外資系ファンドのスティール・パートナーズによるブルドッグソースに対する敵対的買収*2(07年)を覚えていますか?

*1)この敵対的買収にかかる訴訟を以下、「ニッポン放送事件」といいます
*2)ブルドッグソースが買収防衛策(ポイズン・ピル)を発動したことによる一連の訴訟を以下、「ブルドッグソース事件」といいます

いずれの事件も、敵対的買収者が会社の支配権を取得しようとした際の防衛策として、敵対的買収者以外の既存株主に新株予約権を無償発行することで、敵対的買収者が保有する株式保有割合の希薄化を試みたという点では、共通する事件です。

これらの裁判で「濫用的買収者(注:乱用的買収者ともいう)」という言葉が脚光を浴びるようになりました。濫用的買収者を定義すると、ブルドッグソース事件の判決文によれば「真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、専ら当該会社の株価を上昇させて当該株式を高値で会社関係者等に引き取らせる目的で買収を行う」者などをいいます。

この記事では、濫用的買収者の判断基準と、買収者がM&Aの際に図らずも濫用的買収者と言われないようにするためには何に気を付ければよいのか?の2点についてお伝えしたいと思います。

濫用的買収の判断基準とは?

厳密には「濫用的買収者」という言葉は法律用語ではありませんが、その概念が登場したのは、ニッポン放送事件(東京地裁判決 平成17.3.11、東京高裁判決 平成17.3.23)においてです。

ニッポン放送事件の高裁決定では、「濫用的買収」の具体例を次のとおり4つに分類して挙げています。

真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)
会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなどいわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合 
会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合(筆者注:敵対的LBOの場合
会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合など、当該会社を食い物にしようとしている場合 

平成17(ラ)429  新株 予約権 発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告(全文)より

これら1~4の場合には、濫用目的をもって株式を取得した敵対的買収者は、株主として保護する必要はなく、会社は対抗手段として必要性や相当性が認められる限り、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許されるとされています。

そして、「濫用的買収者」という言葉が実際に裁判で使われたのは、2007年のブルドッグソース事件の高裁決定においてです(東京高裁判決 平成19.7.9)。

ブルドッグソース事件の高裁決定では、スティールが濫用的買収者であると認定されました。その論拠は、「スティールが買収対象会社の発行済株式のすべてを取得することを表明しているにもかかわらず、買収対象会社の経営を行う予定はないとして、経営支配権取得後の経営方針を明示せず、投下資本の回収方針についても明らかにしなかったから」です。

さらに、なぜ「濫用的買収者」と認定したかを、より具体的に言及している箇所があります。少し長いですが、重要なところですから、判決文をそのまま引用します。

投資ファンドという組織の性格上,当然に顧客利益優先の受託責任を負い,成功報酬の動機付けに支えられ,それを最優先にして行動する法人であり,買収対象企業についても,対象企業の経営には特に関心を示したり,関与したりすることもなく,当該会社の株式を取得後,経営陣による買収を求める一方で突然株式の公開買付けの手続に出るなど,様々な策を弄して,専ら短中期的に対象会社の株式を対象会社自身や第三者に転売することで売却益を獲得しようとし,最終的には対象会社の資産処分まで視野に入れてひたすら自らの利益を追求しようとする存在といわざるを得ない。そして,抗告人関係者(筆者注:外資系投資ファンドのスティール)は,相手方(筆者注:買収対象者)の全株式を取得するといいつつ本来協働し合うべき企業の経営面を顧慮せず,いたずらに相手方に不安を与えている。すると,このような抗告人関係者がした前記の経緯,態様による本件公開買付け等は,前記の企業価値ひいては株主共同の利益を毀損するものとして信義誠実の原則に抵触する不当なものであり,これを行う抗告人関係者は本件については濫用的買収者であると認めるのが相当というべきである。(平成19年(ラ)第917号 株主総会決議禁止等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件(原審・東京地方裁判所平成19年(ヨ)第20081号)

ちなみに、ブルドッグソース事件の高裁決定から約1か月後に判示された最高裁判決では、スティールが「濫用的買収者に当たるといえるか否かにかかわらず」控訴審判決を是認するとして、原審判決の結論を支持したものの、スティールが濫用的買収者であるかどうかの判断基準を具体的には示していません。そして、スティールによる株式公開買付けTOB)が実行され、経営支配権の取得の可能性が生じたために、既存株主のほとんどが、会社の企業価値の毀損を防ぎ、会社の利益ひいては株主の共同の利益の侵害を防ぐと判断したことには、正当性があると判示しています。(最高裁判決 平成19.8.7)。

M&Aで濫用的買収者と言われないために

このように過去の判例を概観すると、投資ファンドならば、即、濫用的買収者であると判定され兼ねないように思えます。しかし買収者が「専ら短中期的に対象会社の株式を対象会社自身や第三者に転売することで売却益を獲得しよう」としてM&Aをするケースは、実際のところ往々にしてあるのではないかと思います。

それでは、濫用的買収者と言われないためには、どうすればよいのでしょうか。

対策1.濫用的買収の4つの判断基準に抵触しないこと

まずは、(ニッポン放送事件において示された)濫用的買収の4つの判断基準に抵触しないように心がけましょう。たとえば、会社経営に参画する意思を見せる、支配が一時的でないという姿勢を買収先に示す、不用意に資産の売却を前提に買収の話を進めない、などの対応が考えられます。

対策2.経営支配権取得後の中長期的な経営方針を明示すること

次に、ブルドッグソース事件の高裁決定における買収防衛策の濫用的買収者認定の流れを踏まえ、買収対象会社やそのステークホルダーに対して、経営支配権取得後の中長期的な経営方針を明示し、また、投下資本の回収方針についても意識的に明らかにすることが肝要です。

対策3.自己の利益だけでなく株主全体の利益につながることを説明すること

そして、自己の利益だけでなく、買収先の企業価値や会社の利益、株主の利益をいかに高めるかについての対応策を提示することで、買収先を不安にさせない努力も必要となります。

スティールが濫用的買収者に認定されたことは、有識者のあいだでも議論が交わされました。当時から10年以上経過しており、M&Aの作法は日本でも定着してきているとは思いますが、今後ますますM&Aの需要が増えることが予想されます。一部の有識者だけでなく、本件に多くの方が興味を持ち、また買収する側と買収される側が、WIN-WINの関係を築けるようなM&Aが増えるよう、願っています。

文:Naoko Yamamoto/編集:M&A Online編集部

関連リンク:
●ニッポン放送事件
・東京地裁 平成17.3.11 平成17(ヨ)第20021号 新株予約権発行差止仮処分命令申立事件 (→リンク
・東京高裁 平成17.3.23 平成17(ラ)第429号 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告(→リンク

●ブルドッグソース事件
・東京高裁 平成19.7.9 平成19年(ラ)第917号 株主総会決議禁止等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件(→リンク
・最高裁 平成19.8.7 平成19(許)30 株主総会決議禁止等仮処分命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件(→リンク

●裁判所 判例情報検索(→リンク