2021年9月1日時点でTOBの不成立は富士興産の案件で今年6件目となりました。うち4件が対象企業の同意を得られずに行われる敵対的買収でした。
そもそも「敵対的買収」とは、どのような場合を指すのでしょうか。
富士興産のケースでは、2021年4月28日にシンガポールの投資会社「アスリード・キャピタル」が「公開買付届出書」を提出し、石油販売会社の富士興産に対し公開買い付けを実施すると公表。これに対し富士興産は、5月28日付けの「意見表明報告書」で「反対」を表明し、敵対的買収に発展しました(その後、アスリードがTOBを撤回し、不成立に終わりました)。
このように、買収者が相手の会社の経営陣の同意を得ないで買収を仕掛けることを「敵対的買収」とみなしています。
上場企業のなかには、敵対的買収の脅威から会社を守るために「買収防衛策」を導入している会社もあります。
経済産業省と法務省は、2005年に「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(「買収防衛指針」)を公表しました。しかし買収防衛指針では、買収防衛策を無条件に肯定しているわけではありません。
経営陣にとっては敵対的であっても、従業員や株主、経済全体にとって良いM&Aであれば、そのM&Aは促進する価値があるからです(もっとも敵対的買収でそれに該当するケースが少ないのですが)。
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資金力にモノをいわせ会社を力ずくで買収しようとする様子は、ワイドショーの格好のネタとなり、しばしば批判の的にされています。
センセーショナルな報道で「M&Aはこわいもの」という印象が強く残りがちですが、実際はこうした「敵対的買収」は数あるM&Aのうちのごくわずかです。ほとんどのM&Aは売り手と買い手がお互いに求め合う友好的なM&Aであることを忘れてはなりません。
特に中小企業の場合は、ほとんどが株式譲渡制限会社なので、経営陣の望まない敵対的買収は原則として起こりません。
株式譲渡制限とは、株主が株式を譲渡するときに取締役会などの承認が必要な制度のことで、会社法で定められています。この規定を導入している会社を株式譲渡制限会社といいます。
中小企業の場合は、敵対的買収の脅威よりも、同族間での争いの方が頭の痛い問題だといえそうです。
「敵対的買収の実態を知る」を改題
文:M&A Online編集部
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